Sさんは70歳を過ぎた頃から物忘れが激しくなり、1年ほどで認知症の診断を受け、要介護1となった。もともときれい好きな女性だったのが、掃除洗濯をまったくやらなくなった。とはいえ、食事を用意すれば自分で食べるし、促せば一人で入浴もできる状態だった。

 家族はケアマネと話し合って「特養に入居を申し込める要介護3までは在宅でケアする」ことに決め、自宅介護がスタート。主な介護の担い手は同居する息子の妻だった。

 その判断が悲劇を生む。しばらくすると、Sさんは、嫁に暴言を吐いたり暴力を振るったりするようになってしまった。介護のストレスが集中した嫁は、ついに体調を崩すところまで追い込まれてしまった──。

 用意できる資金に余裕があれば、もっと早い段階での施設入所を検討できたかもしれない。当然ながら、家族関係が崩壊することは、「幸せな死に方」とは対極に位置する。

 一方の高級老人ホームでは、「家族や知人・友人との面会用にパーティルームまで用意されていることがあります。そこで家族と一緒に誕生日を祝ったりする。そうした会の準備は、施設のスタッフたちがやってくれる」(業界誌記者)という。

 あまりに対照的な世界である。

※週刊ポスト2016年9月9日号

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