ランキング上位で目立つのがトップ10に3社が入った自動車業界だ。経済ジャーナリストの福田俊之氏が解説する。
「内部留保が多いのは売り上げ規模が大きいからです。しかも円高など為替変動の影響を受けやすく、ある程度の内部留保がないと危機に対応できない。特にリーマンショックで一時、赤字転落したトヨタ自動車は手堅い経営で社員還元に慎重です。ホンダ、日産自動車もトヨタに追随する」
2016年3月期の純利益が2兆3126億円に達したトヨタには社員への還元を求める声も強いが、経営陣はあくまで慎重だという。
「豊田章男社長は、『会社を支える社員に手厚く報いたいが、給料は一度上げたら下げられない。そのため、儲けはボーナスで還元する』との意向です。今後も技術開発や株主配当に回る資金が多く、利益が即、社員に還元するというわけではないでしょう」(同前)
上位には三菱UFJフィナンシャル・グループが海外展開で結果を出すなど、収益が好調な銀行も目立つ。金融ジャーナリストの森岡英樹氏の解説。
「たしかに銀行は内部留保が潤沢なほど、株主や利用者から信頼を得られますが、それにしても日本の銀行は慎重経営すぎる。株主からは海外の資産購入や海外企業のM&Aなど、内部留保をより有効に活用すべきでは、という声が聞こえる」
決して本誌は「内部留保=悪」と断罪しているわけではない。問題は内部留保を効果的に利用する「ビジョン」があるかどうかだ。例えば東京五輪を控えた不動産は、社運を懸けた大型プロジェクトを進める。
「三井不動産の日本橋再開発や三菱地所の丸の内再開発など大手不動産はビッグプロジェクトが進行中で相当な資金が必要であり、手元に流動性のある現金をかき集めている」(経済ジャーナリストの町田徹氏)
※週刊ポスト2016年9月16・23日号