この発見のずっと以前から、酵母菌は食物を与えなくてもある程度の期間、生き延びられることが知られており、“不老不死の菌”として研究されていました。オートファジーが発見されたことで、人間の細胞内でもタンパク質やアミノ酸の再利用システムが機能していることがわかり、医学や栄養学を根本から見直すきっかけになっています」
村上氏は同書で、生命が進化の過程でそうした機能を獲得したということは、それだけ生物の身体を形作るタンパク質やアミノ酸の合成が身体に大きな負担となるからだと指摘し、同書のテーマであるサプリメントの活用が人間の健康維持に重要であることを説いているのだが、同時にこれはある社会的テーマの再考を促す事実であると警告する。
「これだけバイオテクノロジーが発展しているにもかかわらず、なぜか学校では教えていないことですが、実は人間の遺伝情報を記録しているDNAには2つの作られ方があります。原子や分子を一から組み立てて作る『デノボ合成』というやり方と、食物として摂取した動物や植物のDNAユニットを分解して再利用する『サルベージ経路』というやり方です。
赤ちゃんのうちはデノボ合成が8割くらいありますが、成長するにしたがってサルベージ経路の割合が増え、70歳くらいでほぼ0になります。つまり、人間は食べた動植物のDNAを再利用しなくては生きていけなくなるのです。オートファジーという機能があるのと同じ理由で、たんぱく質やアミノ酸を合成することは、生物にとってとてもエネルギーを大食いする大変な作業だからです」(村上氏)
それ自体は人体の優れた機能であるが、心配もあるという。村上氏が続ける。
「近年、懸念されている遺伝子組み換え食品が本当に人間の遺伝情報に影響を与えないかという問題です。これまでの科学的調査では、そうした影響はないとされていますが、食べた動植物のDNAが人間のDNAの材料になっているのですから、影響がないのは“たまたま”かもしれません。人間に取り込まれたら病気を引き起こすような食品中のDNAが、消化不良で塊のまま、荒れてデコボコの腸壁から吸収されてしまう可能性もないとはいえないのです。