豊洲への移転問題で揺れる築地市場で、仲卸業を営む男性は誇らしげだ。
「築地の水産物の取り扱い規模は1日平均1700トンで世界最大級といわれています。うちも取引先は銀座の高級寿司店から首都圏各地の魚屋まで手広くやらせてもらっている。『築地市場直送』は、いまでも“伝統のブランド”ですよ」
早朝の市場に足を運ぶと、全国から水揚げした魚を運ぶ卸業者の従業員、卸から仕入れる仲卸業者たちでごった返している。前出の男性が覗き込むプラスチック製の水槽には、キンメダイやカレイなど各地から届いた活魚が泳いでいる。
実は、都幹部の大量処分の引き金を引いた「豊洲の地下水」よりも、この水槽に注ぎ込まれている水のほうが問題ではないか──ということを示す衝撃のデータを本誌は入手した。
この築地市場の水槽の水は一般の水道水ではない。築地市場内だけに供給されている「ろ過海水」だ。
市場の背後を流れる隅田川と東京湾の海水が入り混じる汽水域(海水と淡水が混じり合っている水域)からポンプで汲み上げるため割安で、毎日床や長靴の洗浄に大量の水が必要な市場では広く使われている。
注目すべきは、「加工前の活魚水槽用の水」としても使用が認められているため、飲みも触りもしない豊洲の地下水に比べれば、はるかに我々の“食”に直結している点だ。
都は飲用水基準(水道水質基準)に準じた測定方式で年1回、48項目にわたって定期検査を行なっているが、その結果は公表されていない。そこで本誌は今回、情報公開請求を通じて3年分の「水質試験結果書」を入手した。
その資料をめくっていくと、昨年8月に採水されたろ過海水から、基準値(1リットルあたり0.1mg)の1.6倍の「トリハロメタン」が検出されていたことが判明したのだ。