「メシマズ」なる言葉が囁かれるようになったのは、今を遡ることおよそ10年前。勇気あるひとりの人物が、ネットに「ウチの嫁の作る料理がマズいんだが……」と堪え切れない心情を吐露したところ、あれよあれよという間に拡散。近年、夫たちの嘆きはさらに加速し、「マヨネーズ入りトンコツラーメン」「ケチャップ麻婆豆腐」「ししゃもの牛乳煮込み」など、目を疑うメシマズ写真を投稿しては、慰め合っているという。
たとえば、写真投稿サイト「メシマズ.net」をのぞけば、そのメシマズ写真の一端をのぞくことができる。
もちろん「マズい飯」を作ろうと思って作る嫁はいない(はずと思いたい)。にもかかわらず、家族が顔を背ける一品が食卓にのぼるのはなぜか。「そもそもメシマズ女子は料理好きで真面目な人が多い」と語るのは、グルメライターの霞(かすみ)霧子氏である。
「サービス精神が旺盛で、美味しい料理を食べさせたいという愛情豊かな女性なので、ついレシピにないアレンジを加えてしまう。うまくいけばいいけど、大抵は想像を絶する料理となって完成します。出された方も『美味いね』と心にもないことをいって反省の機会を失うという悪循環なのです」
愛情が生んだ悲劇なのか、それとも笑うに笑えない喜劇なのか。いずれにしても他人事ではない。
累計発行部数40万部超のべストセラー『居酒屋ぼったくり』の著者・秋川滝美が、新たなテーマとして選んだのも、「メシマズ」。最新作『メシマズ狂想曲』が発売された。
主人公・滝田和紗(34)は、仕事一筋に生きてきた甲斐あって、女性ながら異例のスピード出世を果たす。しかし、何か足りない。彼氏だって欲しいし、結婚もしたい。女の幸せをどこかに置き忘れてきたのかも……。
そんな和紗が一念発起、これまで一度もしたことのない料理に挑戦することを決意した。カレーや味噌汁も満足に作れないメシマズ女子が生み出す抱腹絶倒の「勘違い料理」の数々と、恋の行方やいかに──。
食欲の秋、そして読書の秋に、「メシマズ小説」を心ゆくまで味わってほしい。
*写真は専門投稿サイト「メシマズ.net」(http://www.meshimazu.net/)より
※週刊ポスト2016年12月2日号