新史料の作られた江戸時代は男尊女卑の風潮が強くなる時代であり、「家督は男が継ぐ」という先入観からこのような伝承ができたとも考えられる。
実は戦国時代には「おんな城主」の例はほかにもある。下総国を支配した結城家の『結城氏新法度』という戦国家法には「女の子しか居なかったら、女の子であれ、跡取りならば、跡を継いでいい」と書かれている。また、九州の戦国大名大友宗麟の家臣、立花道雪がひとり娘・誾千代に家督を譲る際の、宗麟が出した許可証も残されている。
宣教師ルイス・フロイスの『日欧文化比較』には、「ヨーロッパでは、妻は夫の後を歩くが、日本では、夫が妻の後を歩く」と書かれており、さらに「ヨーロッパでは夫婦間において財産は共有である。日本では、各々が自分のわけまえを所有しており、ときには妻が夫に高利で貸しつける」と、戦国時代の夫婦間の実態まで報告している。
私は、現代の日本人が思うよりずっと戦国時代の女性は強かったと考えている。だからこそ、直虎も中継ぎとして井伊家を束ね、その後の隆盛の礎を築いた女傑だったと理解している。
【PROFILE】小和田哲男/1944年静岡県生まれ。研究分野は日本中世史、特に戦国時代史。NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』の時代考証を担当。著書に『戦国の女性たち』(河出書房新社刊)などがある。
※SAPIO2017年4月号