人生の終わりを悟りながらも2年以上生きてきた彼は、旅立つときに何を想ったのだろう──。週刊ポストで「末期がんの医師・僧侶が病床から贈る いのちの苦しみが消える古典のことば」を連載してきた普門院診療所の内科医で僧侶の田中雅博氏が、3月21日、すい臓がんのため逝去した。
本誌と田中氏との出会いは2015年12月だった。すでにステージ4(最も進んだステージ)のすい臓がんが見つかってから1年以上が過ぎていた田中氏にインタビュー。このとき、すでに田中氏は余命いくばくもないことを覚悟していた。
「生きられるのはあと何か月といったところでしょう」
淡々とそう語る田中氏の落ちつきは、死が間近に迫っている人のものとは思えなかった。
ずっと伝えようとしていたことは、「いのちの苦しみ」との向き合い方だった。「『死ぬのが怖い』という精神的な苦しみは、『自分への執着を捨てる』ことで軽減される」と田中氏は常に説いた。
2016年5月にスタートした本誌連載は、仏教の経典やソクラテスに関する古典などの言葉からいのちの苦しみを軽減する方法をわかりやすく伝え、半年以上続いた。しかし、31回目の原稿を書き上げた直後、「少し体調が優れないので……」と田中氏から連絡が入った。そのため連載を休止したのが今年1月の終わりだった。