それにしてもいったいどうやって、「目隠し」レストランという風変わりなアイディアに辿りついたのでしょうか?
「私自身20年ほど料理人として働いてきましたが、素材の味をしっかりと感じようとする時には、自分でも無意識のうちに、ふと目を閉じているんです。目を閉じた方が味の違いについて繊細に感じとることができることに気付きました。『目隠し』というコンセプトもそこから生まれました」と、「旬熟成 GINZA GRILL」を経営するフードイズム・跡部美樹雄代表取締役は言います。
「普段はどうしても、見た目で判断して、何でも分かったつもりになってしまいますよね。食べているようでいて料理そのものを実は細かく味わっていない。質感にも匂いにも気付いていないことってわりと多いんですよね」
ここ「旬熟成 GINZA GRILL」は、今までにない”本当の肉の味”をテーマにしているとか。
「最高級の但馬牛を100日間発酵熟成し、肉の持つ独特の旨みと味わいを提供したいと思っています。だから最初の数口だけは目隠しをしてヘッドホンをつけていただいて、お客様の五感をいきいきと使って熟成肉の最高の旨みというものを体感していだたきたいのです」
なるほど。面白いコンセプト。奇をてらっているようですが、実はそうではない。考えてみれは、私たちの祖先は「五感をいきいきと使う」ことがかなり得意でした。例えば一年を「二十四節気」「七十二候」に細分化し、微妙な空の色の変化や植物の変化、湿度や温度、雲の形に鳥の声と、季節によって移ろっていく「違い」を感じ分けてきました。
あるいは江戸時代に「四十八茶 百鼠」という言葉も生まれました。茶色には四十八種類、 鼠色に百種類の色がある、という意味です。つまり、当時の人たちは「茶」「鼠」という色において、数十から数百の微妙な色の違いを染めによって創り出し、感じ分けて楽しんでいた、というわけです。
それもこれも、繊細な感性があったからこそできること。いや、21世紀の今だって虫の声を聞き、枯葉の移ろう色を味わい、お香やお茶の香りを楽しんでいる……そう、「五感を繊細に使いこなす」ことは、まさしく「日本の伝統」的な技。
「GINZA SIX」のテーマ「伝統と革新性の同居」というコンセプトを、目隠しして熟成肉を味わうこの不思議なレストランの中でもしっかり感じることができたのでした。