カリスマ経営者としてのイメージがあまりに強く、創業者だと思い込まれている人たちもいる。たとえば、ヤマト運輸の「宅急便の生みの親」小倉昌男氏は、実は父が運営する運輸会社・大和運輸を継いだ2代目だ。「ファミリーコンピュータ」を世に送り出した任天堂の山内溥氏は創業者の曾孫で3代目社長。花札やトランプを作っていた老舗企業を、世界的ゲーム企業に変えた。
ユニクロで知られるファーストリテイリングの柳井正社長も2代目。父親が山口県宇部市で営んでいた紳士服の個人商店を受け継いだ柳井氏は、服を「人間の暮らしに生活不可欠な繊維工業製品」とみなし、ベーシックなデザインを低価格で売るという路線で驚異的に店舗を拡大していった。
伝説的な創業者を持つ企業でも、実は“中興の祖”の存在が大きかった。たとえば、三菱は岩崎弥太郎が有名だが、財閥の歴史に詳しい畠山秀樹・追手門学院大学名誉教授によれば、一大財閥に築き上げたのは子孫たちだという。
「岩崎弥太郎は海運業で富を築きましたが、2代目・岩崎弥之助の時代に海運業が国によって三菱から分離されてしまったことからその譲渡資金で多くの炭鉱や金属鉱山を買収し、さらに3代目の久弥の時代に事業部制を取り入れた。そして今も引き継がれる経営理念『三綱領』を残した4代目の小弥太の時代に各事業部を株式会社として分離・独立して財閥コンツェルン形態を完成したのです。4代にわたって財閥としての基礎を築きました」
その強固な基礎が、いまなお続く三菱グループの絆に繋がっている。
※週刊ポスト2017年5月5・12日号