戦国時代の書状は、武将たちにとって唯一の通信手段であり、そのほとんどが戦場においてやり取りされる命令書であった。現代の手紙と違い、自分の心境や心情を書き記すことなど滅多にない。刻一刻と変わっていく戦場において、そのような心の内面を吐露することなどまったく必要がないからだ。
実際に手紙を書くのは、右筆と呼ばれる秘書役が一般的で、現存する手紙の多くが右筆書きである。大量に文書を発給する立場にある武将が、いちいち自筆で命令書を書くわけにはいかないから生まれた役職だ。
当然のことながら文字を書くことに長けた者が選ばれ、主君の赴く戦場に常に付き従い、主君の命令を文字に起こしていく。書かれた手紙に目を通した主君が、最後に花押と呼ばれるサインをする。
つまり、この手紙は自分が出したものであるということのお墨付きを与えるのだ。そのため、武将による直筆の手紙は非常に稀といえる。例えば織田信長の自筆書状は5~6通が確認されているのみ。数ある信長の手紙といわれるものは、ほとんどが右筆による代筆となる。