一方、自筆の手紙を数多く残しているのが、毛利元就と伊達政宗だ。家族宛の手紙が多い元就に対して、政宗は家族のみならず家臣や同僚というべき大名や公家にまで、自身の筆を披露している。それもかなりの筆まめで、数は1000通を下らない。
自筆の手紙からうかがえるのは、自身の信頼する家族や一族の武将などに対して、あけすけに自分をさらけ出しているということ。一般的な命令書では武将たる威厳を保つ名目があるが、家族宛や信頼のおける家臣宛となれば、話は別だ。
「特に、芸事にも長けた政宗は自筆書状を残した武将のなかでも抜群に字がうまい。彼は伊勢物語を書写して襖絵に残すなど、書に対する自信が相当あったようです。ですから、彼には自分の筆を周囲の人たちに見てほしいという気持ちもあったのではないでしょうか」(静岡大学名誉教授・小和田哲男氏)
右筆書きとはいえ、思わず自分の心情をこぼしてしまう手紙もなかにはある。そこからは、血で血を洗う戦場に生きた武将たちの生々しい人間味を垣間見ることができる。
※週刊ポスト2017年5月5・12日号