観光客が往来する東京・浅草の雷門通り。鰻料理店「やっこ」の店内に一歩足を踏み入れると、ステンドグラスの光が差し込む大正浪漫の世界が広がる。創業は200年以上前の江戸・寛政年間。老朽化により25年前に建て直され今の姿になったが、創業当時から変わらぬ場所で営業を続ける。
幕末には勝海舟とジョン万次郎が連れ立って足を運んだ。万次郎は鰻をわざと残して折り詰めで持ち帰り、恵まれない人に与えたという逸話も残っている。夏目漱石は『虞美人草』のなかで、「ある人に奴鰻を奢ったら、おかげさまで初めて旨い鰻を食べましてと礼を云った」 と登場させた。
肉厚で脂がのった特選うなぎを使った「うな重 桜」(4100円)には肝吸いとお新香がつく。蓋を開けるとたれの香りが辺り一面に漂う。身がくずれる直前まで柔らかく蒸し、秘伝のたれにつけ、30年以上の鰻職人が備長炭で丁寧に焼き上げる。入口を入ると店内は大正ロマンの雰囲気が漂う。
「ジョン万次郎さんのご子孫は今でもいらっしゃいます」(矢野昌宏社長)
鰻は時々に応じて最良の産地から仕入れる。香ばしく焼き上げられた身は、箸を入れるとふわりと柔らかくくずれる。下町浅草で、江戸っ子に愛され続けてきた味がここにある。
【やっこ】
住所:東京都台東区浅草1-10-2
営業時間:11時半~20時45分(LO)
休日:水曜(祝日の場合は営業)
撮影■岩本朗 取材・文■戸田梨恵
※週刊ポスト2017年6月23日号