これを見た杉本七段は「よほどおかしかったのか、客観的に見たかったのでは」と某情報番組でコメントしたが、正直驚いていたようだ。対して、“ひふみんアイ”の継承者が出たと喜んだ加藤九段は、この行動を藤井四段の「形勢がいいと思った余裕、上から目線、ファンへのサービス精神」と説明した。同じ行動でも、捉え方はまるで違っている。
藤井四段のその時の仕草から“ひふみんアイ”を分析してみると、遠回りで増田四段の後ろに回ると、背筋を伸ばしてすくっと立ち、ハンカチを口に当てて盤面を覗いている。いや、待てよ。何やらハンカチを噛んでいるようにも見えるではないか。
立ち方からすると、自分が劣勢であるとは思っていなかっただろう。だが、ハンカチを口にした仕草を見ると、対局の形勢に確信が持てず、客観的に見て確認したかったというところではないだろうか。というのも藤井四段は思案中、ハンカチで口元を拭うことが多いからだ。口元、特に唇に触れるという仕草は、自分の気持ちを安心させるためのセルフタッチである。
だがもし、ハンカチを噛んでいたとしたら…。推察でしかないが、もしかするとそこまでにまずい手があったのか、それとも何手先なのか、あそこに打たれたら厳しいという手が見えたのか?
最後は、増田四段が盤に小さく右手を出して投了。藤井四段が頭を下げて対局は終了した。素人目には、投了の瞬間がよくわからなかったが、その数手前から増田四段が上着を着始め、きっちりと正座したたことで、勝敗の行方は見え始めていた。
負けた増田四段は対局の感想を聞かれると、口元を膨らませたり、右に左に歪めて「う~ん」と低く唸っていた。よほど悔しかったと見える。
さて次なる対局相手、佐々木勇気五段は藤井四段をかなり意識しているようだ。増田四段との対局が始まる時、部屋の隅で正座して二人が入ってくるのを待っていた。プロが他のプロの対局を観戦するのは異例のことらしい。しかし、佐々木五段は藤井四段が入ってくると、ちらっとその姿を見ただけで顔を伏せてしまったのだ。
藤井四段を意識していることを悟られたくなかったのかもしれない。増田四段が入ってきた時は、しっかりと増田四段の動きを見つめていたからだ。
藤井四段が前人未到の30勝という大台に突入するのか、それとも静かに闘志を燃やす佐々木五段がそれを阻止するのか? 7月2日の対局はますますヒートアップするに違いない。