このほどスナックの本格的な研究をまとめた「スナック研究序説──夜の公共圏」(白水社)という本が出版された。スナックといっても食べる方ではなく、飲む店のことである。ちょっと歳を食ったママがいて、置いてあるのは安い酒、客はカラオケでどんちゃん騒ぎ──そんな昭和な雰囲気の店をなぜ研究したのか。なにがわかったのか。スナック研究会を主宰して、同書の編者である首都大学東京法学系教授、谷口功一氏(44歳)に聞いた。(取材・文=フリーライター・神田憲行)
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──谷口先生は法哲学がご専門なんですが、法哲学とスナックというのはどういう関係があるんでしょうか。
「当初は関係ありませんでした(笑)。たんに自分がよくスナックに行ってて、スナック関係の本も読んで楽しんでいたんです。ところが都築響一さん、玉袋筋太郎さんなどの面白い本はあったんですが、いつからスナックが始まり、全国に何軒ぐらいあるのかという体系的なことを書かれた本が無かった」
「それで学者の悪い癖で『わからないことは調べてやろう』と思い、ひとりで文献をあさって読み出したのが始まりです」
「そのうちにひとりでやるのがきつくなってきて、大学の同僚や学者仲間らに声を掛けて、『スナック研究会』を立ち上げました。それがサントリー文化財団から研究助成を受けることになり、研究が本格化しました。2015年の7月から馴染みのスナックを毎月お借りして、研究会を実施していました。報告者はレジメを作成して研究報告をして質疑応答するという、本当にちゃんとした研究会です。それをまとめたのがこの本です」
本書には宍戸常寿・東京大学法学部教授や苅部直・東大法学部教授など、谷口氏以外に9人の研究者の報告が掲載されている。豪華なメンバーが、ひたすらスナックについて大まじめに論述を展開しているのがおかしい。
「もともと私は『公共性とはなにか』ということを研究していて、そこでコミュニティについて研究していました。その延長線上で、スナックも小さなコミュニティのユニットだということに気づきました。とくに地方に行くとみんなスナックに行くから、スナックがコミュニティのハブになっています」
──本のタイトルにある「公共圏」とはそういう意味なんですか。
「学問的には公共圏とは理性的な討議をする場所なんで、厳密には違うんですが、地方だとスナックが半ば公的なスペースになっています。選挙になると対立陣営に話を聞かれるとまずいから誰もスナックに行かなくなったりとか、グループによって行くスナックが棲み分けされていたりして、準公共圏的存在なんですよ。イギリスのパブに近いんですが、スナックは階級的差異がないのでより優れています」
──先生がそもそもスナックにはまったきっかけはなんですか。
「私は実家が別府で自営業をしていまして、父親がしょっちゅう外で飲んでいいたんですね。それで水商売にもとから親しみがありました」
「それで自分でも行くようになったのが30代半ばくらいです。そのあと大学でたいへんストレスの溜まる仕事をするようになったり、息抜きをするために通うようになりました。家でも職場でもない第3の場所で、他のお客さんと仕事と全然関係ないたわいもない話をして帰る。これだけで良い気分転換になってストレスもだいぶ軽減されました。私はこれをスナック健康法と言ってます(笑)」
「飲むのは地元だけでなく、地方に出張したときも必ず探して飲んでいます。今まででたぶん田舎の一軒家買えるぐらい飲んでいると思う」