迷子になった親を交番に迎えに行く…。母がどんな顔で待っているのか想像もできないまま、交番に駆けつけた。
「Nちゃん…」
私の顔を見ると、母は顔をくしゃくしゃにしてなんと笑い出した。恥ずかしいのか状況がわかっていないのか、私もよくわからないまま、
「大変、お世話になりました」
と、ふたりで頭を下げた。帰り道、沈黙を破って、私は努めて明るく切り出した。
「ついにお巡りさんのお世話になっちゃったね」
迷子になったときのことなど覚えていないだろうし、明日も散歩に出かけるだろう。反省したところで、今後の予防策にもならない。
「いいのよ、迷子のばあさんを助けるのが、お巡りさんの仕事なんだから」
なんと、そう来たか!
「迷子になって交番に飛び込んだら娘が迎えに来た」という構図が、母には成功体験としてインプットされたようだ。
ま、いいか。大嫌いな機械で自己防衛するより、人の善意を頼っていく方が母の性には合っている。しばらくはそんな図太さが萎えないよう、見守った方がよさそうだ。
※女性セブン2017年9月7日号