生まれてから死ぬまで動き続ける心臓は、大量のエネルギーを必要とする。脳のエネルギー源はブドウ糖だが、心臓はその7割以上を長鎖(ちょうさ)脂肪酸で賄っている。1分子のブドウ糖から得られるエネルギー(ATP)38個に対し、長鎖脂肪酸1分子からは、約140個のエネルギーが生まれるため、効率よくエネルギーを得ることができる。
新しく発見された中性脂肪蓄積心筋血管症は、心筋細胞や冠動脈の平滑筋(へいかつきん)細胞の中に中性脂肪が溜まる病気だ。長鎖脂肪酸が3つ付いたものが中性脂肪で、代謝されれば心臓のエネルギーとして使われる。それが代謝異常によって細胞内に中性脂肪として蓄積する。蓄積により心臓がエネルギー不足となり、また脂肪毒性による臓器障害も起こる。
この病気を発見した大阪大学大学院医学系研究科の平野賢一医師に話を聞いた。
「私が阪大病院の循環器病棟の責任者をしていたとき、標準的な治療に抵抗性を示す心臓病患者を担当しました。心筋と血管平滑筋細胞に、中性脂肪が溜まる、まったく新しい病態ということで、2008年に論文を発表しました。実は、1例目の患者は大変に稀な遺伝子異常が原因でした。現在、世界でも46人しか見つかっていません。その後の研究で、遺伝子に異常はないものの、同じ病態の患者さんが数多くいることがわかってきました」
心臓病の原因の一つである動脈硬化は、血管内にコレステロールが蓄積する。しかし、この病気は心筋細胞の中にコレステロールではなく中性脂肪が溜まり、脂肪細胞のようになる。冠動脈の平滑筋細胞にも中性脂肪が溜まり、血管が狭く(狭窄)なるが、コレステロールの場合は血管の一部が局所的に狭窄するのに対し、この病気では枯れ枝のように狭窄する。中性脂肪の代謝異常が原因なので、血液中の中性脂肪の数値とは関係なく、BMI値や体重とも関連せず、痩せていても発症する。