新たなマナーやルールを法令で定める場合、事前に広く国民への理解と周知が諮られなければ実効性は乏しいといえるが、いま、規制ありきで前のめりの法整備が進められているのが受動喫煙防止を目的とした「たばこ対策」だ。しかも、国(厚労省)と東京都がそれぞれ独断でルールを設けようとしているから、話は余計にややこしい。
11月中旬より新宿、錦糸町、上野、八王子など東京のJR主要駅付近では、都が公表した受動喫煙防止条例(仮称)に対し、慎重な議論を求める署名活動が行われた。
都の飲食業組合らが主催となり、「これから飲食店などの屋内は全面禁煙になるかもしれません。お客様と事業者が“喫煙・分煙・禁煙”と自由に選択できる環境を残すために、ぜひ署名にご協力を!」と街ゆく人々に呼びかけた。
だが、新たに禁煙場所に指定されそうな施設や面積、例外規定などをめぐって国や都の統一基準がコロコロと変わっており、肝心の都民の意志はもはや置き去りにされているのが現状だ。新宿駅南口の喫煙スペース内で署名に応じた40代男性は、こう吐き捨てた。
「屋内も屋外も喫煙できる場所をジワジワと減らしていき、最終的にはすべて禁煙にしたいのだと思う。少数とはいえ喫煙者の声がまったく聞き入れられないまま、一方的にたばこ規制が進んでいくのには反対です」
事実、東京都はすでに18歳未満の子どものいる部屋や自動車内などで喫煙をしないよう努力義務を課した「子どもを受動喫煙から守る条例」を成立(10月5日)させたが、都民から幅広い意見を募るパブリックコメントを実施したのは、直前の8月30日~9月8日のわずか10日間だけ。しかも、その結果は非公開だった。
さらに、前述したように都は本命ともいえる公共施設や飲食店などの屋内を罰則付きで原則禁煙にする条例(受動喫煙防止条例)の来年可決を目指して10月6日までパブコメを実施。こちらはさすがに批判を恐れてか意見募集結果を公表したが、規制強化を含む条例案に賛成したのは6464人だったのに対し、一部反対を含め反対票は8192人と賛成を上回る結果となった。
〈喫煙者のモラル・マナー向上に努めるべき〉〈飲食店は店頭表示を徹底すれば十分〉など、強硬なたばこ規制に疑問を呈する声が挙がったが、都は「頂いたご意見や各種調査結果を参考に条例案を検討し、年度内に条例案の提出を目指します」と、あくまで条例制定にこだわる姿勢を見せている。
こうした形式的なパブコメ実施に果たして意味はあるのか。東海大学名誉教授(行政法)の玉巻弘光氏がいう。