西野ジャパンの躍進は、この男にも刺激になったに違いない。2016年5月、キリンカップのボスニア・ヘルツェゴビナ戦で日本代表デビュー、その後移籍したオランダ1部リーグのヘーレンフェーンでは、2シーズンにわたりコンスタントにプレーしてきたMF小林祐希。ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督の下ではたびたび代表に招集されていたが、本大会開幕を2カ月前にしての突然の指揮官交代も影響してか、ロシアW杯では予備登録メンバー35人からも漏れることになった。
日本中がロシアW杯に沸いたなか、「4年後のカタールW杯で日本代表のキャプテンになる」という目標を掲げてすでに始動した小林。だが、一歩ピッチを離れれば、日本で米の販売会社をスタートし、オランダで美容サロンを開店させるなど起業家としての道も歩み始めた。現役サッカー選手が描く、ビジネス戦略について聞いた。(取材・文/栗原正夫)
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──昨年は岐阜県飛騨高山の酒蔵と組んで日本酒をプロデュースしたのを皮切りに、秋には会社も立ち上げ、山形県南陽市で生産された有機栽培米「夢ごこち」の販売をスタートさせました。また、2月にはアムステルダムで美容サロンもオープン。サッカー選手が現役中からビジネスを行うことには賛否ありますが、企業したキッカケは何だったのですか?
小林:いちばんのキッカケは、東京Vのジュニアユース&ユースで同期だった仲間、高野光司(*東京V、ギラヴァンツ北九州などでプレー。現在は小林のビジネスパートナーとして活動する)の引退です。光司は2016年に23歳で現役を引退することになりましたが、一緒にサッカーをやってきた仲間がこれからどうするんだろうって思いましたし、引退したら「さよなら」じゃ寂しいじゃないですか。
引退後に指導者や解説者になる人もいますが、そうした仕事に就ける人は一握り。じゃあ、サッカーをやってきた人がほかの仕事をやったらダメかと言ったらそうじゃない。やっぱり、サッカーをやってプロにまでなるってすごいことだと思うし、仮に仲間が「あの人サッカー選手だったけどプロではダメだったとか」と言われてしまうとしたら悔しいじゃないですか。会社を立ち上げれば、今後も仲間でいられる。
サッカー選手は「サッカーだけやってろよ!」って声もあるだろうけど、オレはサッカー以外のことをやっているからといってサッカーに集中していないわけじゃない。むしろ、オランダにいる時は1人でサッカーのことばかりを考えているけど、それだけだと頭が疲れる。もちろんサッカーをやっているときは楽しいけど、それ以外のことで自分のモチベーションを上げるのもいいじゃないですか。それに、企業と言ってもオレ自身は好きなことをやっているだけなんですけどね。
──将来的にはホテルを経営したいとか。
小林:ホテルをやりたい。とういうのも、自分が好きなものを集めて、人が集まる場所を作りたいんです。たとえば、いまこの取材を受けているレストランだって美味しいものがあるから人が集まっているわけで、自分の作るホテルに自分の好きなコンテンツがあったら最高じゃないですか。考え方としては相当イージーなんですが、オレはお酒や美味しいものが好きだし、ファッションも好き。だから、いいレストランがあって、いい美容サロンがあったら、そのホテルに行きたくなりますよね。オフに茶道や陶芸を体験したり、酒蔵や農家さんともいろいろコラボさせてもらっていますが、最後はみんなそこにつながっていくと思うんです。
──すでに具体的なイメージもあるようですね。
小林:例えばそのホテルのレストランで料理人を育成するシステムがあったり、優秀な女性が心配なく働けるようにホテル内に託児所を設けられたらいいですよね。それに、身体に障害のある人でも、その人の良さを生かして健常者と同じ待遇で迎え、プロスポーツ選手を目指しながら夢が叶わなかった人のセカンドチャンスの場にもできたらいい。別に偽善じゃなくて、そういう困っている人の受け皿になれたらと思うんです。
1度失敗しても、やる気があればチャンスをあげたいですよね。オレだってオランダでトップ下で出たかったけど、監督に適性はボランチにあると言われて試合に出続けた。それだってアリじゃないですか。それを実現するためにも、いまはオレがピッチで頑張りたい。