三年の養成所期間を経て俳優座の正式な座員になる。同期で合格したのは原田芳雄、栗原小巻と秋野の三名だけだった。
「養成所は面白かった。狭い中で何人もが顔をつきあわせながら、しかも俳優の修業だから泣いたり笑ったりを曝け出して人間同士をぶつけ合わせる。みんな人生を賭けてきているから、競争も凄い。だから厳しいんだ。小野武彦なんかジャリッパゲができたくらいで。精神を病んだ人もいた。普通の学校とは違う。
僕は養成所に入ったら自活するつもりだったけど、アルバイトしながら通っていたら落ちこぼれると思った。それで親父に頼んで援助してもらったんだ。余ったお金でモダンバレエも習ってね。他のみんなも何か習っていましたよ。いかに出し抜いてやろうか、という世界だから。バレエはセミプロくらいまでになって、おかげで卒業公演の時はみんなで踊るシーンでセンターをやらせてもらえました。
それから、他のみんなは大きい役を狙って揉めていたんだけど、僕は小さな役をやることになって。それで同情してもらって二役やれたんだ。それも小さな役なんだけど、その時の一言のセリフで演出家と原作者の田中千禾夫さんが泣いてくれて。それで受かったんですよ。
原田芳雄は主役、栗原小巻も大きな役。その二人と一緒に僕が合格したんだから、役の大きい小さいとか、実は役者の評価とは関係ないんだよね」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/横田紋子
※週刊ポスト2018年7月20・27日号