ライフ

サバ缶が魚の缶詰の代名詞だったツナ缶を逆転する歴史的背景

魚の缶詰に歴史あり(写真:アフロ)

 サバ缶とツナ缶、いずれも多くの人々にとって馴染みの深い缶詰だが、ここ最近の両者は実は対照的な動きをしている。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。

 * * *
 かつて「魚の缶詰」と言えばツナ缶だった。しかし近年では、サバ缶がツナ缶の生産量を上回るようになった。まぐろ・かつお類のツナ缶は2008年から2017年の10年間で4万5561トンから3万3945トンへと25%以上減った。一方のサバ缶は2008年の2万5401トンから2017年に3万8977トンへと5割以上も増えた。単年度の逆転劇ではない。政権交代は何年もかけてじわじわと行われてきた。なぜ不動とも思われたツナ缶政権は、サバ缶に取って代わられたのだろうか。

 流通関係者に話を聞いても、明確な理由は判然としない。それはそうだ。ヒット商品は売る側の事情ではなく、買う側の気分で生まれる。その「気分」をあの手この手でくすぐろうとするのが、売り場を含めたPR施策やさまざまな広告であり、そうした手法を用いても買い手の気分を完全にコントロールすることなどできないからだ。

 ただし、あちこちで話を聞くと「この数年、サバ缶がメディアで取り上げられることが増えた」と口をそろえる。隔世の感がある。

 以前、サバ缶のメディア露出について明治時代にまでさかのぼって調べたことがある。もともとサバ缶は記事掲載とは無縁だった。大正や昭和の頃、たまに「美味・滋養・廉価」というキャッチコピーで「さばの罐詰」の広告が紙面を賑やかす程度だった。そもそもサバは大衆魚であり、缶詰も保存食。読者が求めるごちそう感とはほど遠い。

 昭和の頃は紙面で見かけることはほとんどなく、第二次大戦前の新聞広告や戦中の配給情報までさかのぼって、ようやく目にするくらい。戦後も、少しは増えたとはいえ、最近までは、「さばの缶詰」が紙面に登場するのは年に1度あるかないかという程度だった。だが2011年以降、サバ缶は急激にメディアに取り上げられるようになる。

 契機は、東日本大震災だった。震災による津波で宮城県石巻市の水産加工会社「木の屋石巻水産」の工場などが全壊。がれきと泥の中から数万缶の缶詰を掘り起こした。そこに缶詰のファンで、店でもこの缶詰を仕入れいた東京・経堂の居酒屋「さばのゆ」の店主が協力を申し出た。泥まみれだった缶詰をボランティアがひとつずつタワシで洗った。ラベルのない缶詰を店頭に並べ、1缶あたり300円の寄付金を募って支援金に充てた──。

 後に「さばのゆ」店主の須田泰成さんが『蘇るサバ缶』(廣済堂出版)という一冊の本にまとめることになるのだが、この石巻と経堂の交流が新聞やテレビで一気に取り上げられ、世の中に「サバ缶」への好意が膨らんでいった。

 露出が増えれば、興味の矛先は広がり、メディアも違う切り口を考えるようになる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

無罪判決に涙を流した須藤早貴被告
《紀州のドン・ファン元妻に涙の無罪判決》「真摯に裁判を受けている感じがした」“米津玄師似”の男性裁判員が語った須藤早貴被告の印象 過去公判では被告を「質問攻め」
NEWSポストセブン
激痩せが心配されている高橋真麻(ブログより)
《元フジアナ・高橋真麻》「骨と皮だけ…」相次ぐ“激やせ報道”に所属事務所社長が回答「スーパー元気です」
NEWSポストセブン
Instagramにはツーショットが投稿されていた
《女優・中山美穂さんが芸人の浜田雅功にアドバイス求めた理由》ドラマ『もしも願いが叶うなら』プロデューサーが見た「台本3ページ長セリフ」の緊迫
NEWSポストセブン
トンボをはじめとした生物分野への興味関心が強いそうだ(2023年9月、東京・港区。撮影/JMPA)
《倍率3倍を勝ち抜いた》悠仁さま「合格」の背景に“筑波チーム” 推薦書類を作成した校長も筑波大出身、筑附高に大学教員が続々
NEWSポストセブン
12月6日に急逝した中山美穂さん
《追悼》中山美穂さん、芸能界きっての酒豪だった 妹・中山忍と通っていた焼肉店店主は「健康に気を使われていて、野菜もまんべんなく召し上がっていた」
女性セブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
【入浴中の不慮の事故、沈黙守るワイルド恋人】中山美穂さん、最後の交際相手は「9歳年下」「大好きな音楽活動でわかりあえる」一緒に立つはずだったビルボード
NEWSポストセブン
結婚披露宴での板野友美とヤクルト高橋奎二選手
板野友美&ヤクルト高橋奎二夫妻の結婚披露宴 村上宗隆選手や松本まりかなど豪華メンバーが大勢出席するも、AKB48“神7”は前田敦子のみ出席で再集結ならず
女性セブン
スポーツアナ時代の激闘の日々を振り返る(左から中井美穂アナ、関谷亜矢子アナ、安藤幸代アナ)
《中井美穂アナ×関谷亜矢子アナ×安藤幸代アナ》女性スポーツアナが振り返る“男性社会”での日々「素人っぽさがウケる時代」「カメラマンが私の頭を三脚代わりに…」
週刊ポスト
NBAロサンゼルス・レイカーズの試合を観戦した大谷翔平と真美子さん(NBA Japan公式Xより)
《大谷翔平がバスケ観戦デート》「話しやすい人だ…」真美子さん兄からも好印象 “LINEグループ”を活用して深まる交流
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
「服装がオードリー・ヘプバーンのパクリだ」尹錫悦大統領の美人妻・金建希氏の存在が政権のアキレス腱に 「韓国を整形の国だと広報するのか」との批判も
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《私には帰る場所がない》ライブ前の入浴中に突然...中山美穂さん(享年54)が母子家庭で過ごした知られざる幼少期「台所の砂糖を食べて空腹をしのいだ」
NEWSポストセブン
亡くなった小倉智昭さん(時事通信フォト)
《小倉智昭さん死去》「でも結婚できてよかった」溺愛した菊川怜の離婚を見届け天国へ、“芸能界の父”失い憔悴「もっと一緒にいて欲しかった」
NEWSポストセブン