私が「これは自分の物語だ」と強く思ったのは『まめだ』です。子狸がいたずらをして、そのせいで子狸自身が亡くなってしまうという話ですが、住職が子狸の「まめだ」の死骸を見ているシーンがあります。
あの瞬間、グッと胸に迫ってきました。私自身は子供を亡くした経験はないですが、子供はいますし、周りにも小さな子供たちがいっぱいいるので、子狸が薬の使い方を知らないで死んでしまった、そんな描写に、思わず泣いてしまったんです。
貂々さんも『まめだ』を聴いた帰り道に泣いていましたが、それは母なればこそなのか、単純に悲しいとか優しいとは違う、自分の深いところに突き刺さってくるような悲しみでした。
でも、その悲しみは喪失感として残らず、最後、「狸の仲間からぎょうさん香典が届いたがな」というオチの言葉で浄化されて救われた気がしました。
今回、この『お多福来い来い』を読んで、落語を生で聴きたいと強く思いました。岡山に住んでいるので、なかなか機会はありませんが、寄席にももっと行ってみたいです。
落語は生活の傍らにあって、そうだそうだと頷くところがたくさんあることを知りました。人間にはいろんな面があって、善男善女だけではないし、悪人だけではないし、多様さを改めて感じられたのは大きな収穫でした。
※女性セブン2018年8月16日号