ここで、シャープレイ=シュービック指数について、簡単に説明しておく。まず、ある仮想の投票の様子をイメージする。議決に関与する参加者が一列になって、順番に賛成票を投じていく。そして、誰が賛成票を投じたときに、議案が成立するか、を考えてみる。
この議案の成立のための最後の1票を投じた人は、「ピボット」と呼ばれる。ピボットが賛成票を投じてしまえば、ピボットより後に並んでいる人が、全員、気が変わって反対票を投じたとしても議案の成立は覆らない。たとえば、過半数で議案が成立するケースで、3人の議員で投票していく場合は、2人目に賛成票を投じた人がピボットとなる。
そして、投票の順番として考えられる全てのケースについて、このピボットが誰になるのかをみていく。最終的に、ある人がピボットになる投票の順番が、全体の順番の数のうちどれだけあるかを、割り算したものが、その人の指数、つまり投票力となる。
3人の議員であれば、投票の順番は全部で6通り。各議員は、2通りずつの順番でピボットとなる。したがって、それぞれの議員の指数は6分の2、つまり3分の1ずつとなり、どの議員も同じパワーを持つこととなる。
それでは、537名が関与するアメリカの連邦法の場合は、どうなるか。投票の順番は、全部で537の階乗(数学の表記では、537!)だけある。これは、537×536×535×……×2×1通りという膨大な数だ。そのそれぞれについて、大統領、副大統領、100名の上院議員、435名の下院議員の誰がピボットになるかをみていく……。
もちろん、こんな作業を、手計算や電卓だけで行おうとすれば、ものすごく大変なことになる。パソコンで表計算ソフトを使うなど、何らかの現代文明の利器が必要となるだろう。
また、537!という数を直接計算しようとしたら、桁数が1235桁もあって、それだけで計算がオーバーフローしてしまう。そこで、実際の計算では、組み合わせの数を多用する必要がある。さらに、法案成立のための提携の形が、(1)~(3)の3つあるため、場合分けをする必要もある。つまり、一言でいうと、計算はかなり面倒なのである。
筆者は、当初渋っていたのだが、本稿の編集者にたきつけられて、ざっくりと計算をしてみることとなった。その結果、指数の値は、大体つぎのようになった。