不動産登記簿が現在のようにコンピューター化されたのは、不動産登記法が施行された2005年以降になる。それ以前の登記簿は、登記用紙がバインダーに綴じられていた紙帳簿である。当時、そのバインダーは誰もが閲覧可能だった。今は登記簿を見ようとするなら、法務局で個々の謄本をあげる必要がある。しかし以前は、誰でも簡単に自由に閲覧できたのだ。
ここで地面師が登場する。
「以前、登記簿は閲覧だけではなく、閉じてあるバインダーから勝手にはずして、自由にコピーできた。だから金曜日の午後に法務局に行き、登記簿を閲覧、これというのをバインダーからはずし、原本を持ち出した後、バインダーを元の場所に戻しておく。役所は土日休みだから、誰も持ち出したことに気がつかない。帰ってから、持ち出した原本に、字体が同じタイプライターで所有権の移転など必要事項を打ち込む」
必要事項を打ち込んだだけでは、偽造は終わらない。
「そこに登記を行った登記所の印がいる。印に使われていたインクが特殊でね。ちょっと黄色い色をしたやつなんだが、普通には売っていない。ところが裁判所には同じものが売っていたんですよ」
犯罪に使う道具が、裁判所でしか買えなかったとは皮肉な話だ。
「ゴム印を切り張りして登記所印を作り、それを押す。そこには登記官の名前がないといけないが、名前を知るのなんて簡単」
当時の登記所では、机の上に卓上名札が置かれていたため、登記官の名前は一目瞭然だったのだ。
「あとは月曜日の朝一番、再び法務局に出向いて、偽造した原本をバインダーに戻しておくだけ。窓口で交付申請し、職員に登記簿謄本をあげてもらうと、きちんと偽造した謄本が役所からあがってくる」
これが彼らのいう地面師の本来のやり口であり、彼らは法務局の文書を偽造して仕事をする人間を地面師と呼んでいたという。
この方法ができなくなったことで、なりすましや身代わり、養子縁組などの方法で不動産をだまし取る手口が増えたのだと、幹部は語る。
この事件では、カミンスカス容疑者が首謀者の一人で、土地を探す役割も担っていたといわれているが…?
「土地を探すのなんて難しくない。車で走っていて、駐車場でも何でも目ぼしい所があれば、そこの謄本をあげればいい。よさそうだとなれば、あとは詳しく調べるだけで。一番大変なのは買い主を見つけてくることだ」
物件より買い主を見つけるのが難しいのだという。
「当然、買い主を見つけてきた、今回なら積水を紹介した人間から金の配分が多くなる。小山も積水を紹介したグループ側だろうから、配分も多かったはず。金の配分も含め、これだけ人数が多くなると、途中でもめてくるものでね。どこかでほころびが出てくるんですよ」
地面師が暗躍しそうな土地は、都内だけ見ても、まだまだいくらでもあるという。次の犯罪に向けて、別の地面師グループが、すでに仕込みを始めているのかもしれない。