音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、才気煥発な柳家喬太郎の多面性についてお届けする。
* * *
昨年末、ソニーよりDVD「落語研究会 柳家喬太郎名演集」が発売された。TBS「落語研究会」での喬太郎の高座を収めたもので、「一」「二」「三」の3枚組。収録演目は「一」が『お札はがし』『錦の舞衣(上)』『錦の舞衣(下)』、「二」が『布哇の雪』『擬宝珠』『橋の婚礼』『宗漢』『孫、帰る』、「三」は『お菊の皿』『饅頭こわい』『錦木検校』『宮戸川(全)』。
『お札はがし』は三遊亭圓朝の長編「牡丹灯籠」で最も有名な場面。喬太郎は独自の解釈で演出して現代人が感情移入しやすくしている。
『錦の舞衣』も圓朝作品で、プッチーニのオペラ「トスカ」の原作となったサルドゥーの戯曲「ラ・トスカ」の翻案。謀反の残党を匿ったとして投獄された夫を救うため操を捨てた妻の悲劇を、喬太郎は感情移入たっぷりの演劇的な手法で濃密に描く。惚れた女を自分のものにするために手段を選ばぬ与力の憎々しいまでの悪党っぷりは、喬太郎の得意とするところ。救いのない物語に観客を引き込み、これでもかと心を揺さぶるパワーはさすがだ。
『布哇の雪』は通常『ハワイの雪』と表記される喬太郎作品。別々に歩んだ長い人生の最期で初恋の相手と再会を果たす男女を描いた感動の名作だ。もうひとつの新作落語『孫、帰る』は山崎雛子作。祖父の家を訪ねた孫の、ある一言で雰囲気がガラッと変わり、涙が止まらない。