『擬宝珠』『橋の婚礼』『宗漢』はいずれも喬太郎が発掘した演目。『千両みかん』や『崇徳院』みたいに始まる『擬宝珠』は一時期さかんに寄席で演じていたネタで、今では喬太郎以外の演者も高座に掛ける。『橋の婚礼』は両国橋と吾妻橋の婚礼にいろんな橋がやって来るというナンセンスな小品。貧乏だが人望のある医者が主役の『宗漢』は、オチはエロ小咄風だが、ほのぼのとした民話的テイストが楽しい。
「三」は通常の古典演目。『饅頭こわい』は有名なわりに高座で聴く機会は意外に少ないが、喬太郎は日常的に演じている。『錦木検校』は『三味線栗毛』と同じ噺だが、先代橘家文蔵が師匠(林家彦六)から聞いたという演出を用いて独自に磨き上げた喬太郎十八番。
『宮戸川』は前半だけを演じるのが普通だが、ここでは後半まで。お花が乱暴されて殺される場面をリアルタイムで描かず船頭が語って聞かせる演出が、喬太郎ならではの陰惨さを醸し出す。結末のドンデン返しにも一工夫加えてある。
才気煥発な喬太郎の多面性がわかる3枚組だ(単品でも購入可)。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2019年2月15・22日号