正社員という言葉は法律で定められているものではなく、明確な定義はない。世間一般にイメージする概念の総称に過ぎない。
一般的なイメージの場合、雇用期間が無期限であり、月給制で賞与が支給され、人事考課なども他社員と差異なく行われれば正社員と見なしていいかもしれない。しかし仮に就業時間の長さに応じて給与を設定しているとしたら、短時間正社員の給与は普通の正社員より低くなってしまう。
例えば、全く同じ仕事を同じ能力の人が行っているとして、普通の正社員の年収が500万円である場合、勤務時間がちょうど半分の短時間正社員であれば年収は250万円となる。
また、似て非なるものに、こちらも事例は少ないが、無期雇用のパート職がある。無期雇用のパート職は、パート職と呼ばれている以上、一般的な概念からすると非正規に入ると思う。さらに、時給制で多くの場合単価は低い。しかし無期雇用であり、収入は安定している。
労働契約法により有期パート職の無期転換が進めば、無期雇用パートの事例は増えていくことになる。さらに、働き方改革関連法の施行で不合理な待遇差の解消が進めば、世の中の正規と非正規の違いは、ますます分かりにくくなる。
以上のように考えていくと、正社員とか正規労働という言葉を使って働き方を表現すること自体に無理が生じてきているように感じる。
そもそも正社員と呼ばれる働き方の問題も多い。会社組織への行き過ぎた忠誠や束縛から、社畜などと揶揄されるケースもある。大手広告代理店の痛ましい過労自死事件も正社員と呼ばれる働き方の中で起きた。
仮に「正社員を善、非正規労働を悪」と一括りに決めつけてしまう先入観のようなものがあるとしたら、それこそが危険なのではないかと思う。
長期安定的に働き収入を得たい人はそれに応じた働き方を、家庭に軸足を置きたい人は過度な負担が生じない働き方を。それぞれの希望に応じて、またライフスタイルの変化に合わせて常に働き方の選択肢が用意されているような社会こそが望ましいのではないかと考える。
安倍首相が掲げる非正規の一掃とは、全員を正社員にするという方向で考えると無理があるように思う。現実的に考えれば、正規・非正規と括る概念の縛りをなくして、誰もが望ましい働き方を選択できるようになる社会を目指すということになるのではないだろうか。
考えれば考えるほど、ざっくりと正規・非正規で括る二元論はもう古く、やめたほうがいいと思う。働く人のニーズは多様化の一途をたどっている。できる限り個々のニーズを汲み取った上で、個々に丁寧に対策をとっていく時代なのではないだろうか。
●かわかみ・けいたろう/1997年愛知大学文学部卒業後、テンプスタッフ(現パーソルホールディングス)に入社し新規事業責任者などを歴任。業界専門誌『月刊人材ビジネス』などを経て、2010年株式会社ビースタイル入社。2011年より現職。延べ2万件以上の“働く主婦層”の声を調査・分析する傍ら、人材サービス業界への意見提言を行う。厚生労働省が委託する女性活躍に関するプロジェクト事業の委員なども務める。