【書評】『世界史の実験』/柄谷行人・著/岩波新書/780円+税
【評者】大塚英志(まんが原作者)
柄谷行人と昔、一度だけ対談したことがある。その時、彼が昔書いた柳田論の話を僕が持ち出しても、さして関心がない様子で、当時、僕がやっていたプライベートな雑誌での復刻は好きにやっていいと許してくれた。
しかし、数年前、その『柳田國男試論』を突然復刊、『遊動論―柳田國男と山人』、アンソロジー『「小さきもの」の思想』の編集、そして本書『世界史の実験』は、『世界史の構造』の続編の如きタイトルでありながら丸々一冊柳田國男論である。柄谷が中上健次以外で一体、これほど拘泥した「文学者」はいないのではないか。
吉本隆明が柳田を「無方法の方法」と呼び、柳田の学問への批判は方法論の欠如というのが定番だった。しかし柄谷は柳田の中に明確な「内的な体系」を見る。それは柳田の「理系の弟子」としての千葉徳爾を介して柳田の学問に触れてきた僕にとって、自明のことであったので、柄谷の主張に同意する。柳田学を世界史に対する「実験の史学」と柄谷は評価する。