角打ち本来のスタイルで、つまみは乾き物のみ
「うれしかったですよ。私なんか30代の頃からお世話になってるんですから。声が大きすぎるぞって叱られたことがありましたが、角打ちマナーやルールに厳しいあの親父さんがいないのは寂しい限りです。でも、彼が書いた“おしゃべり長居は喫茶店でやってくれ”とかのビラがそのまま何枚も貼ってある。つまみは乾き物だけ、酒を自分で持って来て支払いをその都度するという、角打ち本来の姿をそのまま残してくれた。もう、娘さんたちに感謝ですね。現在は再雇用社員である私の、心のオアシスになっています」(60第、商社マン)
奥のテーブルを囲んでいたのは、全員40代だという運輸業の7人組。「ここは、うちの会社のサテライトオフィスみたいなところ。私はもう30年近く通っています。ここは、もう何十年にもわたってうちの連中(社員)によって引き継がれているんです。親父さんのお陰でみんな一人前の社会人に成長させてもらいましたよ。親父さんはいなくなってしまいましたが、大事な店です。再開大歓迎」。
貴代子さんは『居酒屋クラーテル』の経営があるので、実質的に『キンパイ酒店』を切り盛りするのは、妹の喜美子さん。そして、弟の靖憲さんが、早い時間帯を手伝っている。彼は、プロレスラー・TAKAみちのくの弟子で、市内でバーも経営しているという。
P箱を重ねたカウンターや机には、『ここでは飲めません!会計時にじゃまです』とか、『寄りかかるな!物をおくな』などと、いささか乱暴な言葉を、女性の手で柔らかく書いた段ボール紙が置かれている。
「父の言っていた言葉を私が書きました。ルールはぶれてはいけないという父の教え。私たちそのDNAをそのまま持っているので、きついんですよ。職業、肩書、地位に関係なく、角打ちはみんな平等です」と笑う、貴美子さん。
そうだよ、それがいいんだよと喜ぶ常連客の皆さんのお気に入りは、焼酎ハイボールだ。
「この辛口、いいねえ。あの親父さんが気に入って選んだ酒の一つだって聞いたことがあるよ。だからってわけじゃないけど、間違いなくうまいね。」(50代、製造業)
先代の親父さんが描いた看板絵に再び灯が入った。「千鳥足のおじさんなんですが、実はこれ、看板屋さんが間違えて、下絵の方を使ってしまったそうで、グラスを持つ手がちょっと変なんです。でもこれが文字通りうちの看板。角打ちのお客さんとともにこれからも大事にしていきます」(貴代子さん)