難しい状況でこそ人間性が出るものだ。コロナ禍は人間の醜さをもあぶり出している。コラムニストの石原壮一郎氏が指摘する。
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「感染者の“落ち度”を探して『自業自得だ』と言いたがる人」と「性犯罪が起きると被害者の“落ち度”を探して『自業自得だ』と言いたがる人」は、もしかしたら同じ人たちでしょうか。もちろん、どちらの場合も非難したい人が強引にこじつけた“落ち度”であり、感染者や被害者が責められるいわれはカケラもありません。
同じ人たちかどうかはさておき、新型コロナウイルスは人間の弱さや醜さや情けなさをあらためて浮き彫りにしています。今日も全国各地で、感染者やその家族に対する差別や暴言が後を絶ちません。医療従事者の家族や子どもが、職場や学校でバイキン扱いされるという事態も報じられています。
7月29日には全国で1289人の感染が確認され、ついに1日1000人を突破しました。今まで「感染者ゼロ」が続いていた岩手県でも、初めて2人の感染が確認されています。翌30日には全国で1308人と最多を更新。31日には東京都の感染者が、最多だった前日を一気に100人近く上回って463人となりました。22日から「Go To トラベル」キャンペーンが始まって人の移動が増えている中、最多記録はさらに更新されていくでしょう。
「ゼロ」が続いていた岩手県では、県民のあいだで「第1号になることの恐怖」が高まっていました。その恐怖心の大半は、ウイルスに対してではなく、周囲の人々や世間に対するものです。6月下旬には、東京在住の会社員が、岩手に住む父親に「そろそろ帰っていいかな」とLINEで送ったら、父親から「絶対に帰るな。」「岩手1号はニュースだけではすまない。」と返ってきた──。そんなTwitterの投稿が大きな話題になりました。
もちろん、「世間」を恐れるのはこの父親だけじゃないし、岩手県だけではありません。日本に住む多くの人は、ウイルスも怖いけど人間はもっと怖いと感じていることでしょう。感染者が住む家や感染者が働く会社に石が投げられたという事件は、あちこちで起きています。感染者が引っ越しや退職に追い込まれたケースも珍しくありません。
岩手県の達増拓也知事は、以前から「第1号になっても県はその人を責めません」と言ってきました。2人の感染が確認されたときも「県民は自分もコロナに感染する可能性があると共感をもっていただきたい」と、冷静に対応することを求めています。
しかし、感染した男性が、関東地方に泊りがけでキャンプに行っていたことが報じられると、ネット上では(たぶんネット以外でも)「この時期にそんなことするからだ!」という非難が巻き起こりました。名前や勤務先を特定しようとする動きも起きています。「バッシングはやめよう」という声も多くあるのが救いですが、勇気を出して検査を受けた男性が、今後周囲のあたたかさに包まれることを願ってやみません。
当たり前すぎるぐらい当たり前の話ですが、どんなに気を付けていても、感染するときはします。仕事も行かなければいけないし、遠くに移動したり人と会ったりするのも、人それぞれの必然性があります。リスクの高い行動をしたからといって、「そうか自分は気を付けよう」と参考にするのはいいとして、赤の他人が非難する筋合いはありません。感染者は、あくまで「労わられるべき気の毒な被害者」です。