だが、厚労省の担当者も、海外の医学部卒業を騙る事案については、「記憶の限り、聞いたことがない」という。それというのも、受験資格認定には提出書類など厳格な定めがあるからだ。
「卒業証書の写しはもちろん、履修した教科課程、時間を示す書類とその日本語訳もつけてもらう。当該国の大使館、領事館などで、記載内容が事実であると確認された証明も必要です」(同前)
ただ、興味深いのは海外の医学部を卒業後に日本の医師免許を取得する人向けの“ガイドブック”の存在だ。『医師国家試験 受験資格認定』と題された電子書籍は、山本容疑者と同姓同名の人物が編者で、大久保容疑者はツイッターで自身の著書だと明かしている。必要書類の作成、手続きの煩雑さを解説しており、不正を指南する内容は見当たらないが、厚労省のやり方を“熟知”していることが窺える。
書類の偽造などによる不正取得は可能なのか。前出・上氏はこうみる。
「いくら大久保容疑者が関連部署にいても、課長補佐クラスだったといいますから、周りのチェックなしに不正に手を貸すのは難しいはず。海外の医学部から日本で医師を目指すケースがまだ少なかった時代なので、厳格に調べられていたとも思われる。不正の具体的な方法は想像がつかない」
医師免許制度は、医師への信頼の根幹のひとつだ。それが揺らぐことがあってはならない。嘱託殺人の経緯とともに、全容解明が求められる。
※週刊ポスト2020年8月14・21日号