「特別な夏」に放送されているこの夏のドラマは、いつもとはちょっと違うようだ。今、放送されているドラマに「昭和のにおい」を感じさせる作品が増えている。その背景とは? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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今夏に放送されている複数のドラマから、「どこか懐かしい感じがする」「昭和っぽい」などの声があがっています。
老舗和菓子屋を舞台に殺人事件の謎をめぐる人間関係がうごめく『私たちはどうかしている』(日本テレビ系)、双子の兄弟が家族を奪った大企業社長への復讐に燃える『竜の道 二つの顔の復讐者』(カンテレ・フジテレビ系)、娘を溺愛する父のドタバタコメディ『親バカ青春白書』(日本テレビ系)、青春真っ盛りの高校生と軍人の交流を描いた『真夏の少年~19452020』(テレビ朝日系)。
『私たちはどうかしている』は大映ドラマを彷彿させるディープな愛憎ミステリー、『竜の道』は男たちがぶつかり合うハードボイルドな闘い、『親バカ青春白書』はほのぼのとしたムードのホームドラマ、『真夏の少年~19452020』は青春グラフティと、それぞれ作品の世界観こそ違いますが、「昭和のにおいを感じさせる」という点では共通しています。
1クール前を振り返ると、今春の話題をさらった『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)も、浜崎あゆみさんのサクセスストーリーに昭和の大映ドラマをかけ合わせたような作品でした。さらに、映画では昭和のツッパリをフィーチャーした『今日から俺は!!』が大ヒットしています。
なぜ令和の今、昭和のにおいを漂わせる作品が増えているのでしょうか。また、コロナ禍の今、どんな影響が考えられるのでしょうか。
感情むき出しの姿こそ昭和のムード
上記のドラマが昭和のにおいを感じさせている最大の要因は、登場人物たちが感情むき出しの姿を見せるストレートな脚本・演出。『私たちはどうかしている』『竜の道』は憎しみや怒りをあらわにし、『親バカ青春白書』はストレートに愛を叫び、『真夏の少年』は自由や幸せを求めて喜怒哀楽をあらわにしています。
いずれも感情の種類や表現方法こそ異なるものの、「愛する人のため」という思いは同じ。愛憎、純愛、溺愛、友愛など、さまざまな形の愛情を感じさせることで視聴者の感情移入を促しています。今年冬にヒットした『テセウスの船』『恋はつづくよどこまでも』(ともにTBS系)を見ても、「現在の視聴者には、まっすぐな愛情を感じさせる物語が受け入れられやすい」ということがわかるのではないでしょうか。
その「ストレートな愛情を感じさせる」とともに重視されているのが、昭和のにおいを感じさせて視聴者を癒すこと。『私たちはどうかしている』の老舗和菓子屋も、『竜の道』の幸せだったころの家族団らんシーンも、『親バカ青春白書』の父が娘にデレデレするシーンも、『真夏の少年』の自然あふれるのどかな風景も、どこかノスタルジックなムードが漂い、癒しを感じさせています。
ちなみに、現在放送されているドラマはコロナ禍が深刻化する前に決定していた企画であり、影響を受けて決まった作品ではありません。ただ、コロナ禍でストレスフルな日々が続く中、脚本・演出で「ドラマの中くらいは厳しい現実を忘れて癒されたい」という視聴者感情に寄り添おうとしているのは間違いないでしょう。だから重苦しいシーンの多い『私たちはどうかしている』『竜の道』ですら癒しのシーンを挿入して、その落差で楽しませているのです。