中高年層と若年層をダブルゲット
もう1つ昭和のにおいを感じさせる狙いとしてあげておきたいのは、幅広い世代に対する視聴対策。中高年層が反応するのは当然ですが、若年層にとっても昭和のにおいは新鮮な楽しさを感じやすいものなのです。
実際、『M』『今日から俺は!!』は当事者である中高年層だけでなく、昭和を知らない若年層の支持も獲得してヒットにつなげました。ネットや録画機器の普及で視聴形態が分散し、幅広い世代の視聴者を獲得することが難しい時代となった今、昭和のにおいを感じさせることはうってつけの策なのでしょう。
広義に解釈すると、大ヒット中の『半沢直樹』(TBS系)も「現代の時代劇」などと評されるなど、昭和のにおいがほのかに漂う作品。こちらは「愛する人のため」というより、「正義感や使命感に燃える」ことをベースにした作品ですが、主人公が感情を爆発させているという点では似ています。
現代の物語であるにもかかわらずノスタルジックなムードを感じてしまうのは、目の前の相手に感情をぶつけ合うシーンが多いから。平成、令和と時代が変わり、誰かと向き合うことをちゅうちょする人が増え、ネットツールの発達で直接話す機会が減ったことで、むしろその希少価値が上がっているのかもしれません。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。