母のやせ我慢に付き合わされた父は足腰が悪く、通常は椅子からほとんど動くことがない生活を送っていた。暑さで大量の汗をかいたにも関わらず動かないためか床ずれが起き、臀部の皮膚がめくれたようになってしまった。それでも母親は頑なだという。
「コロナと猛暑で、まさかこんなことになるとは思いませんでした。母の誤解が早く解ければと思うのですが、コロナが収束しない限りは厳しいのかなと…」(中村さん)
コロナ禍によって、高齢の親族と会う機会が減った、あえて減らしている、という人も少なくない。そんな状況下での猛暑は、人を簡単に死に追い込む危険性をはらんでいる、そう訴えるのは千葉県在住のデイサービススタッフ・蒲田美子さん(仮名・30代)である。
「お一人暮らしの利用者さんが、別居のご家族の希望で、コロナが落ち着くまでデイサービスを利用しないということになりました。すると、認知症の症状が一気に進行。結局、三ヶ月近くお一人で過ごされていたようで、改めてお会いした時には別人のようになっていました。自宅にはクーラーはおろか扇風機もなく……。ご家族もほとんど放置状態だったようで、自治体の担当者がかなり強く注意を促したそうです」(中村さん)
「死の危険」が同時に二つも身近にあるという前代未聞の状況下。守られるべき弱者が見落とされるような悲劇がないよう、より一層の注意深さが求められている。