私はこう思った。「ホントは分かんねえけど、印は打たなきゃ」ということだってあるはずだ。◎を打つのが仕事だからツライところだが、我々はトラックマンではない。確信が持てないのならそのレースを悠然と見送ればいい。「パドックと返し馬を見ても分かんないから、A紙が推す7番にしとくか」という愚だけは避けるべきだ。
そもそも、競馬における本命の定義は「その人が優勝第一候補と思った馬」である。その人が「思った」ことに乗ってどうする。「その人」には会ったこともないんだぞ(たぶん)。
競馬好きで知られたマーク・トウェインは「多数派は常に間違っている」と皮肉交じりに断じている。前々回に触れた◎の集中などを思い浮かべるわけだが、「多数派」を「他人の意見」に置き換えてもいい。こと競馬に関しては、「自分で決めて、実行する」。これに尽きます。
さて、勝ち馬にはどんな印が付いていたのか。人気薄が勝った場合、全員が何かしら印を打っていれば立派だ。次回は、そのあたりの検証を。
●すどう・やすたか/1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2020年9月18・25日号