ノストラダムスが世紀末とどう「相まつ」のだろう。
宮家邦彦も里見清一も世紀末には災厄が起きると思っているようだ。それは「世紀末」ではなく「終末」である。聖書の黙示録に描かれた天使の軍隊と悪魔の軍隊が闘う世界最終戦争のことだ。字面(じづら)は似ているが意味は全然違う。
週末に何か災厄が起きるだろうか。月末はどうか。年末はどうか。これらはだいたい楽しい行事が控えている。世紀末は、特に楽しくはないけれど、別に災厄が起きたりはしない。
歴史上に二十回起きた世紀末のいくつかを検証してみよう。なぜ二十回かと言うと、紀元前には当然西暦などないからだ。
さて、五世紀末にはフランク王国建設。八世紀末には平安朝成立。十二世紀末には鎌倉幕府開設。十五世紀末にはコロンブスの新大陸到達。十六世紀末には関ヶ原の合戦。十八世紀末にはフランス革命。いずれも歴史発展の契機(モーメント)となった。もっとも、負けた方、侵略された方からすれば災難だが、それでも世界最終戦争ほどではない。
「世紀末」とは文化史用語で「十九世紀末的風潮」という意味である。十九世紀の末期、ボードレールやワイルドなど頽廃的で背徳的な文学や美術が流行した。これを世紀末文化と呼ぶ。十九世紀末特有の現象である。英語では世紀末をdecadent(頽廃的)と言う。
●呉智英(くれ・ともふさ)/1946年生まれ。日本マンガ学会理事。近著に本連載をまとめた『日本衆愚社会』(小学館新書)。
※週刊ポスト2020年10月2日号