ギンズバーグ判事はアメリカを代表する人権派でフェミニストだった(CNP/時事通信フォト)
実は、もうひとつ政治的な背景が絡んでいる。大統領選挙と同時に上院選も行われるが、こちらも共和党の旗色が悪くなっている。場合によっては、上院の多数を失う可能性もある。なにしろ、改選となる共和党トップのマコネル院内総務が議席を失うのではないかと予測されているのである。トランプ氏のめくらまし戦法というだけでなく、共和党にとっては「いま決めておかないと、民主党にホワイトハウスも上院も奪われてからでは手も足も出なくなる」という事情もあるというわけだ。
「もちろん、民主党もトランプと共和党がそう出てくるなら反撃の手はある。さすがにこれだけ私利私欲の最高裁判事選びは国民にもおかしいと映る。アメリカの伝統と良識を捨てようとしている、という批判は保守派に刺さりやすい。これは民主党にとって大きなチャンスでもある」とK氏は指摘する。
筆者は、トランプ氏には自分の最後が見えていると思う。断末魔のあがきというより、4年間の大統領としてのレガシーを作ろうとしているのではないか。1人の大統領が、4年間で最高裁判事を3人も決めるのは異例の事態だ。トランプ氏はリベラル派と保守派のバランスなどお構いなしに、保守系判事を増やしてきた。新しい判事候補には、人工中絶に反対する2人の女性控訴裁判事の名が取り沙汰されている。この人工中絶こそ、アメリカの価値観の土台を揺さぶる課題であり、右派と左派の決して歩み寄れない溝である。トランプ氏は、最後の最後にアメリカに大きな分断をもたらそうとしているのかもしれない。