映画評論家で映画監督の樋口尚文氏は、草なぎの微笑みに着目する。

「かつてフランスの哲学者ロラン・バルトが日本文化論『表徴の帝国』を書いたとき、その最初の口絵に使われたのが武者姿の舟木一夫の肖像だった。そういう枠組みで見ると、見慣れた舟木一夫の顔がとてつもなく不思議で微妙なニュアンスを発するオリエンタルな美貌だと気づかされた。

 そして今、日本人が容貌も容姿もどんどんバタ臭くなっていくなかで、草なぎ剛は和風の端正な美貌、おくゆかしい引き算と余白の演技、優しく少し哀愁を帯びたアルカイック・スマイルによって“東洋の神秘”的な美学を継承する数少ない俳優だ。

 それゆえにドラマ『僕シリーズ』のようなペーソス溢れる優しい役柄は草なぎの真骨頂だが、麗しきトランスジェンダーに扮した新作映画『ミッドナイトスワン』でも、まさに女形文化の現在を体現していた。こうした持ち前のオリエンタル・マジックを武器にして、今後は欧米を中心とする汎世界的なアピールに打って出てはと思う」

 かねてより「新しい地図」は、世界進出のうわさがささやかれている。現時点で『ミッドナイトスワン』の全世界配信や海外上映などの発表はないが、それらが実現したとき、一体何が起こるのか? 期待してやまない。

●取材・文/原田イチボ(HEW)

 

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