大野のケースのように、采配によって防御率が下がらないようにする、といったサポートはできるが、そもそも投手の記録は、相手チームが「妨害」したり「阻止」したりする余地はほとんどない。タイトルがかかっていようといまいと、相手の打者はヒットを打ち、得点をあげ、勝利しようと努力することに変わりはない。奪三振については、三振しなければいいや、とコツコツ当てて内野ゴロになることはできるかもしれないが、奪三振王を狙うような名投手が相手であれば、それさえも必ずうまくいくわけではない。打者を封じるために敬遠するような簡単な妨害はできないのである。
「特定の投手に勝利をあげさせることはできなくはありません。古い例ですが、400勝投手の金田正一は、最後はリリーフで勝ち星を稼いで大台に到達しました。400勝を飾った試合では、先発の城之内邦雄が勝利投手の権利獲得目前で金田にスイッチして勝利を譲っています」(スポーツ紙デスク)
味方が犠牲にならなければできない「工作」となると、それを使える場面は金田正一のような大記録達成の時などに限定される。もうひとつ、最近の投手分業制も投手部門でインチキがあまり起きない背景にあるという。
「三冠王はじめ主要なタイトルは規定投球回数に達していないと権利がないものばかり。しかし、最近は投手の分業制が進み、先発投手でも『100球投げたら交代』といった事実上の球数制限があるから、規定回到達がなかなか難しい。今年は現段階でセ・リーグは5人、パ・リーグは6人しか達成していない。どのみち各球団のエース同士が争うタイトルだから、小細工や奇策の余地はあまりない」(同前)
タイトルを獲りたい気持ちも獲らせたい親心も十分わかるが、ファンとしてはガチンコ勝負を見せてもらいたいものだ。
取材・文/鵜飼克郎(ジャーナリスト)