各地の迷惑防止条例で路上での客引き(キャッチ)は禁止されている
冒頭のキャッチの男は、警備員にどれだけ怒鳴られても、通行人に片っ端から声をかけまくる。キャッチされた通行人が驚くほどの声で、拡声器から警備員の声が響く。その日、夜の10時ごろまで、キャッチと警備員のバトルが続いた。筆者が、仕事が終わったと思われるキャッチの若い男性に話しかけたところ……。
「違法? かもしれないですけど、俺らこれしか仕事ないっすもん。キャッチなんて保険もなんもないフリー扱いだし、給付金だってもらえない。俺らが貰おうとしたら、ふざけるなってあんたら怒るでしょ(笑)。まあ、グレーな手続きやってもらってるやつもたくさんいるけどね、俺はキャッチ一本。まともな仕事に就けと言われるけど、仕事ねーじゃん、コロナで」(キャッチの男性)
こうした光景は、コロナ禍を経て日常を取り戻しつつある全国の繁華街で見られるという。今まで商売がままならなかった分、彼らは必死で客を取りにかかっており、当局との小競り合いは珍しいことではなくなってきているのが現状だ。
確かに違法だと定められているキャッチが街に溢れている状態は健全とはいえない。ただし、彼ら彼女らにも生活がある。仕事はするな、でも助けもしないよ、と行政や世間に見放されれば、彼らはさらに行き場をなくし、よりブラックな世界に足を突っ込むことになるのは明白である。
実際、筆者が取材した現役のキャッチの中には、勤務する飲食店が潰れクビになり、他に雇ってくれる店もなく、今日食べるためにキャッチを続けていると明かす女性もいた。また、キャッチの多くはこれといった職能を身につけていない若者である。そんな仕事はやめろ、まともな仕事をしろ、といったアドバイスをするだけでは的外れなのだ。
「分断の世界」とも言われるが、私たちは同じ時間、同じ国に生きている。その仕事を選んだ自己責任だと彼らを見放すことは、私たちの世界をより悪くする。「違法キャッチ」に従事しなくても済むような環境が用意されること、抜本的な解決方法はこれしかない。