発達心理学などを専門とする法政大学文学部心理学科の渡辺弥生教授は、幼い子供が残虐な描写から受ける影響についてこう指摘する。
「公開中の劇場版『鬼滅の刃』のレイティングはPG12です。つまり、12歳以下の子供に視聴させる場合は、保護者の助言や指導が必要です。見せっぱなしは良くありません。その理由として、まず、暴力シーンに曝露されることは、その後の子供の心にネガティブな影を落とします。攻撃的な行動や考え方、怒りの感情などに関連すると多くの研究で報告されています。
特に幼い子供ほど、善悪の判断や文脈の理解をせずに強い刺激に晒されると、見たまま聞いたままを真似します。“強い者がヒーロー”といった単純な捉え方をしがちです。さらに、類似したシーンを見ると怒りが湧き上がるようになります。記憶の断片が脳内で突如ネットワークされ、考えや行動に繋がってしまうのです。そうすると生活の様々な場面が『呼び水』となり、何度でも怒りが喚起されたりします。
他方、幼い子供ほど『傷つき』『脅威に感じ』やすい傾向が高く、遊びの中でこうした状況に『曝露される』度合いが多いと、トラウマになるリスクも高まります」(渡辺教授)
では、小さな子供が残虐な描写のある作品に興味を持った場合、大人はどのようなことに注意すれば良いのだろうか?
「PG12といっても、そもそもどのような『PG(Parental Guidance、保護者の助言・指導)』をすればリスクが回避できるのか、それ自体が明らかにされていません。酷いシーンを見ながら『現実には暴力は正当化されないものだよ、報われないものだよ』と伝えて理解してくれる年齢だったら良いですが……。幼い子は、現実とファンタジーとの区別も難しいものです。『うちの子はまだ助言が難しい、リスクのほうが大きい』と思ったら、物語を味わえるときまで待ったほうがベターです」(渡辺教授)