そもそもアメリカ大統領選の選挙制度は、何が問題なのか? 現在の選挙人制度は「民意」と異なる結果になることがあるからだ。
選挙人は、50州のうち48州は「勝者総取り方式」で、メーン州とネブラスカ州だけが得票数に比例して割り振る。このため選挙人の数が多い州で僅差で負けると、全米の得票総数で相手を上回っても、選挙人獲得数では下回って敗北するのだ。
実際、そうなった例がこれまでに5回ある。最近では2000年のアル・ゴア、そして2016年のヒラリー・クリントンだ。
結果に納得しなければ、州ごとに訴訟をしたり、お金を払って数え直しを要求したりでき、その基準は州ごとに異なっている。
また、選挙人は大統領選の日に州民による投票で選出され、基本的に州の有権者の過半数が誰に投票したかに基づいて12月15日に投票し、連邦議会が翌年1月に開票するという仕組みになっているが、必ずしも自分の州の勝者に投票しなくてもよいらしい。現に、2016年は7人の選挙人が造反したとされている。
さらに、アメリカでは18歳以上の国民に選挙権があるが、全国的な有権者名簿が存在しないので、居住地で自分で有権者登録を行なわないと投票できない。だが、普通の国は国民が選挙権年齢になれば、自動的に選挙権が付与される。有権者登録という手続きが必要な国は、アメリカ以外には寡聞にして知らない。
そして、プライマリー(予備選挙)とコーカス(党員集会)を含めて事実上1年10か月という選挙期間も長すぎる。大統領の任期が3年目に入ると次期大統領選の候補者が名乗りを上げ、4年目の2月にはプライマリーとコーカスが始まって政治家もマスコミも国民も浮き足立ち、大統領は内政でも外交でもスタンドプレーに走りがちになる。
これを抑えるためには、プライマリーとコーカスのスタートを4年目の4月くらいから3か月間とし、スーパーチューズデーのように複数の州で同時に進行していく。それで残った数人の候補者の論戦を1か月かけて行ない、8月に全国党大会を開いて1人の候補者を決定する。その後、民主党と共和党の最終候補者が論戦を2か月続けて11月の投票日を迎える―というスケジュールに短縮すべきである。
このように、アメリカ大統領選の選挙制度は根本的な欠陥が多く、21世紀に全くそぐわない。もしアメリカが再び世界の民主主義のリーダーになりたいのであれば、このお粗末な選挙制度を(生体認証でスマートフォンやPCによる投票を可能にすることも含めて)可及的速やかに改革しなければならないと思うのだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は『日本の論点2021~22』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』等、著書多数。
※週刊ポスト2020年12月18日号