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2021.01.11 16:00  週刊ポスト

【書評】「季語のとりこ」になった川上弘美氏の俳句エッセイ

『わたしの好きな季語』著・川上弘美

『わたしの好きな季語』著・川上弘美

【書評】『わたしの好きな季語』/川上弘美・著/NHK出版/1700円+税
【評者】嵐山光三郎(作家)

 季語は連歌や俳句の季節を示すための言葉で、朝寝は春、団扇は夏、枝豆は秋、沢庵は冬。沢庵を漬けるのが冬なのでそうなります。で、七草は新年。「妙な言葉のコレクション」が趣味だった弘美さんは、大学生のころ、図書館で「歳時記」を発見して狂喜して読みふけった。それまで見たことも聞いたこともなかった奇妙な言葉が歳時記に載っていて「まるで宝箱を掘り出したトレジャーハンターの気分になった」。

 そうやって十数年たったころ、ひょんなことから俳句をつくるようになった。季語のとりことなっていく日々のエピソードをつづった俳句エッセイ集。絵踏は冬の季で「傾城の蹠白き絵踏かな」(芥川龍之介)の句にある「生と性と死の結びつき」とはなにか。

 朝寝は春の季語で「あらうことか朝寝の妻を踏んづけぬ」(脇屋善之)。「朝寝は、大好き」と語りながらこの句を示すのです。団扇は夏の季。弘美さんの家には全部で二十三枚の団扇がある。お気に入りの句は「へなへなにこしのぬけたる団扇かな」(久保田万太郎)。枝豆は秋。朝顔の種、枝豆、西瓜が「秋の季語・意外ベストスリー」。八月のはじめ、立秋の前日で歳時記での夏はおしまい。

 弘美さん流枝豆のゆで方は、柔らかゆで期→固ゆで期→気まぐれ期のサイクルを二週間ほどで繰り返す。「枝豆や三寸飛んで口に入る」(正岡子規)。食べ物の句になるとガゼン色めきたつ。

 さて、たくわんの章には「死にし骨は海に捨つべし沢庵噛む」(金子兜太)。太平洋戦争のことを詠んだ句を示しながら、祖母が漬けたしょっぱくて、すっぱくて、ひねていたたくあんを思い出す。七草は新年で「せり・なずな、以下省略の粥を吹く」(池田政子)。ははは「以下省略」がいいね。

 季語に関する九十六編のエッセイは、これから俳句を詠んでみようという人におすすめです。十年前に春愁という季語でたくさんつくった弘美句で一句だけ句集に載せたのは「はるうれひ乳房はすこしお湯に浮く」でした。

※週刊ポスト2021年1月15・22日号

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