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「タメ口接客」がイケてる店の証だった昭和時代 アラ還記者が回顧

(写真/公式HPより)

『おちょやん』を見てオバ記者が思ったこととは?(写真/公式HPより)

 体当たり企画でおなじみの、女性セブンのアラ還ライター“オバ記者”こと野原広子が、世の中で話題になっているトピックにゆる~く意見を投げかける。今回は、NHKの朝ドラ『おちょやん』に関するお話です。
 
 * * *
 コロナ禍になって以来、ロクなことはないと思っていたけれど、NHK連続テレビ小説だけは別ね。

 前回の『エール』では、キャスティング担当者が、出てほしい役者に片っ端から声をかけまくって、みんな叶ったのでは?と思ったほど、出演者の顔ぶれが充実していた。

 それから、エキストラの数の多さね。今回の『おちょやん』の舞台になっている大阪・道頓堀の賑わいを、カメラが“引き”で見せるたび、「おぉ、おぉ」と言いつつ、目で通行人の数を数えたりするから、忙しいったらない。

 それに前にも書いたけど、『おちょやん』って、自分の過去といろいろとつながるのよ。

 たとえば、18才になった竹井千代(杉咲花)は、「おちょやん」とからかわれると、「誰が“おちょやん”や!?」と怒る。「おちょやん」は「小さい女中さん」の意味で、大阪では「おちょぼさん」とも言ったそうな。

 そりゃあ、子供とはいえ、8年も芝居茶屋で働いたら中堅どころ。「あてには、千代というちゃんとした名前があるんじゃ。名前で呼ばんかい!」と言いたいんだよね。

 で、振り返れば私も、1年間働いて、とうとう名前で呼ばれなかった職場があるの。

 高卒で靴屋の住み込み店員になり、1年で退職した後、夜はマスコミの専門学校に通いながら、昼は喫茶店のウエートレスをしていたときのこと。

 茨城なまりが出ないように必死だった19才の私にとって、都心の喫茶店は驚くことばかりよ。

 ビルの上階が大手芸能プロダクションだったんだよね。芸能プロダクションが何をするところかはわからないけど、テレビで見ていた人が、カウンターに座って焼きそばをすすっている。アイドルが深刻な顔して、マネジャーに仕事の不満をぶつけている。そういえば、飛ぶ鳥を落としていた私と同世代のアイドルに、からまれたこともあったっけ(笑い)。

 最初はそのたびに顔を引きつらせていたけど、店の美人経営者(当時36才にして「ママ」と呼ばれていた)は「フンッ、芸能人っていっても、ふつうの人間よ」と平気の平左。そのうち私も慣れてきたんだね。誰がドアを押して店に入って来ても気にならなくなったの。

 だけど、いつまでたっても慣れないのが、私の呼び名よ。喫茶店はママとカウンターを仕切っているМさん(34才)の2人で切り盛りしていて、その両方が私を「彼女」と呼ぶんだわ。

「彼女、はい、コーヒー、3番テーブルね」
「彼女、先にご飯、食べちゃって」
「彼女、ちょっと買い物行ってきてくれる?」

 いつになったら名前で呼んでもらえるのかなと思っていたけど、とうとう1年後に店が閉じるまで呼ばれなかった。美人経営者は何度もお寿司を食べに連れて行ってくれたし、Mさんからは洋服をもらったりして、何くれと気にかけてくれた。感謝しかないんだけどね。でも、名前で呼ばれたかったな、という思いはどこかに残っている。

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