有森さんは自分と向き合うため、日記をつけることを習慣にしている（写真／時事通信社）
生物の進化が幸運の積み重ねだったように、“運”が味方をしてくれたことで、偉業を成し遂げた人もいる。
1992年バルセロナ五輪で銀メダル、1996年アトランタ五輪で銅メダルと、2大会連続のメダリストとなったマラソンランナーの有森裕子さんは、強運に味方してもらったと振り返る。
「結果論になってしまうけれど、私は丙午生まれで同年代の子供の人数が少なかったため、幼い頃から過剰な競争がありませんでした。現役時代はアスリートも少なく、なぜか海外の選手もあまりいなかった。人生においてライバルが少なかったことを考えると、確かに運はよかったように思います」
そう話す有森さんだが、実は先天性の股関節脱臼があったうえ、小学2年生のときにはダンプカーと接触して左足の甲をけがし、それがもとで度重なる故障に苦しんだ。彼女は、決してツキにめぐまれた競技者ではなかった。
しかし、伴走者として有森さんを導いた小出義雄監督は初めて有森さんを見たとき、首から上に漂う「ものすごい強運」を感じたという。有森さんの名前の画数を調べてみると、強運だとされる画数だったので、「とにかく頑張れや」と声をかけたエピソードもある。
小出監督が口にした「強運」について、有森さんは「精神的な素質のことを言ってくれたのでしょう」と振り返る。
「私には身体能力はなかったけれど、“気持ちの能力”は誰にも負けなかったと思います。競技においてもあらゆることを他責にするのではなく、自分の責任としてとらえて、どんな困難があってもマラソンをやめようとは思いませんでした。そもそも昔から『あきらめる』という言葉の意味がよくわからないんです（笑い）」（有森さん）
周囲から何といわれても自分を曲げず、努力を重ねて2度も五輪のメダリストとなった。結局のところ、運を引き寄せるのは、精神的な強さなのではないか、彼女はそう訴える。
「『運』という字は『運ぶ』と書きますよね。結局、運とは運ぶものなんです。宿命は変えられないけど、運命は自分の運び方次第で変えられます。だから周囲から何を言われても、自分自身をしっかりと持ち続けることが大切。そこさえ間違えなければ、自分で運を引き寄せることができるんです」（有森さん）
アトランタ五輪で銅メダルを獲得した直後、有森さんはこう語って日本中を感動させた。
《自分で自分をほめたい》
それはまさに、何があってもあきらめることなく、幸運を手繰り寄せた自分自身への感謝の言葉だった。
※女性セブン2021年2月4日号
