コロナ禍で“過去最悪”といわれる不況の中でも、マスクのような生活必需品以外で売り上げを伸ばしている商品がある。その筆頭が“姿勢矯正グッズ”だ。
ネットショップをのぞいてみると、「いすに置くだけで背筋が伸びる」とうたうクッションに始まり、猫背改善キャミソールなどがいずれも売り上げランキングの上位に入り、なかにはコロナ特需で年商が10億円以上アップした企業もある。運動の機会が減ったことから、少しでも姿勢をよくして健康を保とうと考える人が増えているのだろう。
実際、電気機器メーカーの「オムロン ヘルスケア」がテレワーク実施者1000人を対象に行った調査には、半数以上が「テレワークで姿勢が悪くなった」と回答している。しかし、パーソナルトレーナーとして水泳や陸上競技など幅広くスポーツ選手の指導を行ってきた「うごきのクリニック」代表・後藤淳一さんは、この風潮に警鐘を鳴らす。
「多くの人は“正しい姿勢”を誤解しています。健康のために、と努力して保っている状態が、逆に体の不調をうんでいる可能性があるのです」
よかれと思ってやっている姿勢が、体に負担をかけているというのだ。
“気をつけ”で肩こりと頭痛に
後藤さんが特に問題視しているのは、いい姿勢の代表格である“気をつけ”のポーズ。
「胸を張って背筋を伸ばした“気をつけ”の姿勢は、見た目は確かに美しいのですが、実は、体に大きな負担をかけています。というのも、胸を張ろうと意識して反り腰になり、腰やひざなどを痛めてしまう人が多いのです。腹筋も常に伸びたままになってしまい、そのため、内臓も無理に引っ張り上げられた状態になってしまいます」(後藤さん・以下同)
背筋を伸ばすためには体に力を入れる必要があり、長時間、力を入れ続けて筋肉がこり固まった結果、肩こりや頭痛を併発することもある。後藤さんがその弊害に気がついたのは、スポーツ選手の指導をしていたときだ。
「一流の成績をあげる選手を観察していて発見したのが、共通して普段の姿勢が猫背気味だったこと。人間にとっていちばん自然な姿勢は、背骨のS字カーブを妨げない“ゆるやかな猫背”だと気づきました。フィギュアスケートやボクシングの選手など、アスリートたちのニュートラルな姿勢をよく観察してみてください。胸を張って“気をつけ”をしている人はいないはずです。
実際、人間の体のしくみから考えても、胸を張って背筋をピンと伸ばすのは不自然な姿勢で、学校でそうするよう指導しているのは日本くらいだといわれています」