若手女優の山田杏奈(20才)が引っ張りだこだ。昨年11月に封切られた映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』をはじめ、現在上映中の『名も無き世界のエンドロール』、『哀愁しんでれら』、『樹海村』と、彼女が出演している映画が相次ぎ公開中。どこの映画館へ足を運んでも、高確率で“山田杏奈に会える”という状況だ。口コミやSNSでも「何を演じても上手い」「どんな役にも感情移入してしまう」といった声が多く、映画を見た多くの人が彼女に注目しているようだ。なぜ彼女は今“引っ張りだこ”なのか。映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説する。
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山田杏奈といえば、弱冠20才にして豊富なキャリアを持つ女優、というイメージだ。デビューから今年でちょうど10周年を迎えた山田だが、子役出身者など、10年以上のキャリアを持つ他の同世代俳優は少なくない。ただ彼女の場合は、そのキャリアが圧倒的に濃密だ。出演した映画の本数はもちろん、作品のジャンルや演じてきた役のタイプも多岐にわたる。
出演作がいくつも同時公開中とあって、“映画女優”のイメージが強い山田だが、意外にも映画初出演は2016年の宮藤官九郎監督(50才)による『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』だ。ダブル主演の長瀬智也(42才)と神木隆之介(27才)を筆頭に、本作に集ったのは豪華かつクセの強い面々。映画デビュー作としては高いハードルを感じるが、ベテランの役者に囲まれての現場は刺激的だったに違いない。ここに彼女の名が並んだのは大抜擢とも言えるものだった。
その2年後、『ミスミソウ』(2018年)で映画初主演を飾ってからは、ギアをトップに入れて急速に成長してきた印象だ。同作で過激な復讐劇を果たす中学生の役を演じ、観る者に大きな衝撃を与えるも、その後に続く作品ではイメージを一新。『わたしに××しなさい!』(2018年)でのヒロインのライバル役をはじめ、2019年には『小さな恋のうた』と『五億円のじんせい』の2作でヒロインに。青春音楽映画である『小さな恋のうた』では歌唱する姿も披露し、出演する作品ごとに自身の俳優像を塗り替えてきた。デビューからたった数年で、“映画の顔”ともなる主要なポジションを担うようになった山田だが、そのバイオグラフィーを辿ると、いかに彼女が多くの作品に必要とされ、愛されているのかが見えてくる。
1月29日に公開された『名も無き世界のエンドロール』は、ヒロインを演じる山田と主演の岩田剛典(31才)、新田真剣佑(24才)とのトライアングルが魅力の作品だ。ミステリーの側面も持つ本作において、山田は物語を駆動させるトリガーのような役割を担っている。彼女が演じるのは煌めくヒロイン像とは少し離れた、常に心に寂しさを抱えた存在。2人の男子を魅了するような無邪気さを持つ反面、時折表情が翳る様は観ていてこちらまで不安になってくる。彼女の一挙一動があるからこそ、本作はスリリングなものとなっているように感じた。