続いて2月5日公開の『哀愁しんでれら』は、主演の土屋太鳳(26才)が3度もオファーを断ったという問題作で、シンデレラ・ストーリーの“その後”を描いたもの。本作での山田は土屋の妹役に扮しているのだが、出番は決して多くない。あくまでも、シンデレラになるまで不幸だったヒロイン(土屋)の妹役だ。この作品での山田のポジション・役割は、平凡な人生を送ってきた上に不幸のどん底に落ちるヒロインの“リアリティ”を支えること。“平凡さ”や“不幸さ”を主張する権利があるのは土屋であり、山田の主張が強ければ物語に綻びが生じてしまう。山田は映画の土屋より前に出ることはなく、見事にこのポジションに“収まって”いた。
『哀愁しんでれら』と同日公開された『樹海村』は、若手女優の山口まゆ(20才)とのダブル主演作。昨年2月に公開され、興行収入14億超えのヒットを記録したホラー映画『犬鳴村』に続く作品で、公開前から大きな注目を集めていた。本作での山田は、同年代の山口とともに先頭に立ち、ぐんぐん座組を率いている印象だ。彼女が演じているのは、“霊が視える”人物。霊は演者が務めているときもあればCGの場合もあるが、後者に関しては、山田はそこに居るはずのない者に対して、あたかも存在しているかのような芝居をしなければならない。本作での彼女の、恐怖に慄き、次第に憔悴しきっていく様は思わず息を止めてしまうほどだった。観客に恐怖を与えるという核になる役どころを十全に担っていた。
どんな作品にも溶け込める順応性の高さが山田の強みだが、それだけではない。主演として前に出たり、脇役として一歩引いたり、そうした作品ごとのポジショニングの上手さこそが、彼女が俳優として最も優れている点だと思う。山田杏奈が引っ張りだこな理由は、ここにあるのではないだろうか。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。