杜氏の中で女性は長谷川さんだけだった(撮影/杉原照夫)
見習い杜氏の長谷川さんは毎朝5時から作業を始め、蔵人たちと1時間かけて30kgの米を手作業で何度も蔵に運び続けた。冬は氷点下になる蔵の中で水作業も多く、体力的に厳しいときもあった。
「よく、“麹は美肌効果があるからきれいな手になるんじゃない?”なんて言われますが、とんでもない! 男女関係なく同じ仕事だったので、手作業の連続で腕も太くなりました(笑い)。体が慣れたのは4年目からです」
実に13年間にわたる見習い期間を経てようやく一人前の杜氏となったが、その頃の女性杜氏は、全国でわずか4人ほど。一人前の職人になってからは従来の酒造りだけでなく、日本酒の勉強会に参加し、ほかの蔵の職人にも教えを受けながら新商品の開発にも勤しんだ。
「日本酒は男性の飲み物のイメージがあったけれど、私はもっと女性に飲んでほしかった。女性でも飲みきれるようピンクの4号瓶に入ったアルコール度数の低い商品や、ワインボトルのような入れ物でコルクの蓋をする商品を試してみました。酒造りが好きなので、職人の仕事は本当に楽しかったです」
おいしいお酒を造りたい──その一途な思いで突き進んだが、営業や経営を学ぶため部署を異動し、2014年に代替わりで社長に就任した。150年の歴史がある酒蔵で初めての女性当主となった長谷川さんは、酒蔵としてさらなる飛躍を目指しつつ、時代に合わせた「働き方改革」を進めている。
「いまは住み込みの杜氏が少なくなり、機械の発展もあって弊社の職人の始業は朝8時になりました。終業は通常17時で残業も少ないため、そういった意味では職人はお子さんがいる女性も働きやすい仕事になったといえるかもしれません」
※女性セブン2021年3月18日号