相棒の「マツ」を演じる松崎しげるとの名コンビぶりが人気を博した。
「マツは芝居が毎回変わる。大きく変わることもあるし、芝居が飛んだり。それを覚悟の上で受けて返して、二人の形を作っていくわけです。他の人だったら、遠慮してできないんじゃないでしょうか。
だいたいは僕の方から『こうやりたいから松崎さん、受けてくれる?』と相談する。すると松崎さんが『思い切り殴り返していい?』と聞いてきたりして、それに僕が『いいよ。左手で僕がパンとやったら思い切りグーで殴り返して』と。そうやって二人で楽しんでやっていました。
監督は二人が勝手に暴れているのを勝手に撮っている。そこに殺陣師の金田治さんが『トミーがそうやりたいなら、もっと面白いことがあるぞ』と膨らませてくれました。それでハチャメチャな格闘シーンになっていったんですよ。
芝居のやり取りってキャッチボールというよりテニスだと思うんです。ぎりぎりアウトにならない所へ打ち込んでいくのが面白い。それをプロ同士でやると、相手がどう打ってきてもアウトな芝居以外は受けられます。そうやっていると俳優同士の力量が分かるんです。
それには、自分を平常心に置いて、離れているところから自分を観察する必要があります。自分がどう動いたら、どう映るか。『トミーとマツ』では、その実験を意識的にしていました」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2021年3月19・26日号