それだけではない。昨年秋には安倍氏の首相としての業績を高く評価した書籍『ジ・アイコノクラスト』が出版され、アイビーリーグはじめ著名な大学の日米関係講座では参考書にすらなっている。アメリカ人に日本の政治家を知っているか? と聞けば、すぐ出てくるのはシンゾウ・アベで、それ以外の政治家はなかなか挙がらない。日米専門家の間でも「安倍氏はバラク・オバマ、ドナルド・トランプという最も扱いづらい大統領をうまく操縦してきた」(米主要紙の外交担当記者)という評価が定着している。
一方で、その後継者である菅氏に同じような大役が果たせるかどうかには首を傾げる向きが少なくない。第一、アメリカ人は菅氏を全く知らないのだ。「菅4月訪米」をいち早く報じた新興ネットメディア「アクシオス」のハンス・ニコルス記者はこう指摘している。
「ミスター・スガは、国内で厳しい政治的チャレンジに直面している。バイデン氏が菅氏にどんな心遣いを示すか注目だ。例えば食事は公式ディナーか、ワーキング・ランチか、写真撮影のセッティングはどうするのか。記者会見はどういった形式にするのか。バイデン氏が無言のサポートをするのかしないのか、そのシグナルになるだろう」
安倍政権時代から、菅氏と安倍氏の間にはすきま風が吹いていた。もし訪米で菅氏が軽く扱われ、「やっぱりアベのほうが良かった」という空気が流れるようだと、外交パフォーマンスのはずの訪米で、菅氏のイライラはさらに高まることになるだろう。
■高濱賛(在米ジャーナリスト)